「【"精霊の思惑。"安寧だが退屈な日々を受け入れる"良き人"と受け入れ難くなった人との齟齬を描いた作品。人間関係の脆弱さと微かなる人間の善性を、衝撃的シーンを織り交ぜて描いた作品でもある。】」イニシェリン島の精霊 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【"精霊の思惑。"安寧だが退屈な日々を受け入れる"良き人"と受け入れ難くなった人との齟齬を描いた作品。人間関係の脆弱さと微かなる人間の善性を、衝撃的シーンを織り交ぜて描いた作品でもある。】
ー 今作に登場する”良き人”パードリック(コリン・ファレル)も、
彼に突然”お前が嫌いになった。”と言い放ったコルム(ブレンダン・グリーソン)も、
パワハラ警官を父に持つドミニク(バリー・コーガン)等、
主要登場人物は皆、ミセス・マコーミックと呼ばれる年老いた小柄なざんばら髪のお婆さんの姿の精霊、バンシーズに取りつかれている。(私の勝手な推測です。)
聡明な妹シボーン(ケリー・コンドン)以外は・・。ー
◆感想
・アイルランド本島で行われている内戦の砲弾の音が劇中頻繁に聞こえて来るが、これは明らかにパードリックとコルムとの諍いを表している。
ー 更に言えば、コルムの心変わりの理由でもある。いつまで、命があるのか・・。-
・コルムが、パードリックとの交流を一切辞めた理由。
”アイツのお喋りを2時間も聞いているのは無駄だ。500年後にも残る音楽を作曲したい。”
と言って書き上げた曲の名前が”イニシェリン島の精霊”である。
ー 明らかに、コルムは”バンシーズ”に憑りつかれている。
だが、もしかしたらコルムはパードリックに対し、”そのまま安寧な生活を送っていると後世に何も残らないぞ!”と言外に仄めかしているのかも知れないと思いながら、観賞続行。-
・そして、コルムがパードリックに”俺を煩わせたら、俺の指を一本づつ切り落とす”と言い放ち、実際に楽器演奏で弦を抑えるのに必要な人差し指を切り落とし、パードリックの家の玄関に”ドン!”と叩きつけるシーン。
ー うわわわ・・。指を切り落とした血だらけの大鋏や、指から血を流しながら演奏するコルムの姿。インパクトが大きすぎる・・。
だが、彼はドミニクの父親の警官に殴られた時に、助け起こす手を差し伸べたりもしている。-
・島の人々も二人の険悪な関係性を知り、緊迫するアイリッシュパブの雰囲気。曇っている空模様。
ー 実に寒々しいが、確かなる世界観を創出している。-
・阿呆と皆から言われているドミニクを演じたバリー・コーガンも、相変わらずの不穏な雰囲気を纏っている。
ー イキナリ脱線するが、コリン・ファレルとバリー・コーガンが共演した「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」の雰囲気と、今作の雰囲気がシンクロしている気がしてしまった・・。-
・そして、時折現れるミセス・マコーミック。年老いた小柄なざんばら髪のお婆さんの姿の精霊バンシーズとも見える姿も不気味である。
ー そんな島の不穏な雰囲気を察したのか、聡明なパードリックの妹、シボーンは逃げるように本土で職を見つけ、島を去る。-
・コルムは到頭、片手の指を全て切り落としパードリックの家の周りにバラまく。だが、一本の指を喉に詰まらせたミニロバのジェニーは窒息死してしまう。
それを知ったコルムはパードリックに謝罪するが、今度はパードリックがコルムに対し”お前の家に火をつける。”と言い放ち、”彼の愛犬を家から出した後に”、実行する。
ー 焼け落ちたコルムの家の周りを徘徊し、燃え残った椅子を触っているミセス・マコーミックの姿。-
<今作は、鑑賞側に様々な見方を許容する映画だと思う。
人によっては、二人の和解を願ったり、バンシーズの思惑を疑ったり、コルムの身体を張った友だった男の生き方に警告を与えるモノではないかと推測するだろう。
私は今作は、人間関係の脆弱性と微かなる善性をマーティン・マクドーマン監督が、様々なシーンに潜ませて描いた作品として鑑賞した。
不穏な世界観や、ラストシーン、海岸でコルムがパードリックに”愛犬を助けてくれてありがとう”と手を差し伸べる姿など、印象的なシーンが多数ある作品である。>
NOBUさん
コメントいただき非常に光栄です。
私も入り口はわかりにくくとも。小さな出来事から大きなテーマにいつの間にか包まれている本作のような作品が好きです。
こんばんは!私は評価を低くつけてしまったのですが、NOBUさんのレビューを見て、なるほど!と考え直しました!さすがですね。
ありがとうございます。
本作は、より芸術的で、見る人の思考力が試される作品のような気がします!