劇場公開日 2022年11月18日

  • 予告編を見る

「【”お兄ちゃん、こっちへ帰って来るよね、と腹違いの妹は記憶喪失の兄に言った。”今作は、或る出来事により記憶喪失になった男の物語であり、邦画名脇役の津田寛治さんの演技に魅入られる作品である。】」宮松と山下 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【”お兄ちゃん、こっちへ帰って来るよね、と腹違いの妹は記憶喪失の兄に言った。”今作は、或る出来事により記憶喪失になった男の物語であり、邦画名脇役の津田寛治さんの演技に魅入られる作品である。】

2025年1月1日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

難しい

■宮松(香川照之)は端役専門のエキストラ俳優として、毎日、その役を演じている。斬られ、射られ、撃たれ、画面の端に消えていく日々。
 真面目に一日に何度も殺され続ける彼の生活は、単調ではあるが一定のリズムを刻んでいる。
 だが、劇中で明らかになるのだが、実は彼には過去の記憶がなかったのである。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・普段は雄弁に喋るイメージがある香川照之氏が今作では、あくまでも控えめで抑制した演技で”過去を失くした男”宮前を演じている。

・彼が過去を失くした事情は、序盤では直接的には描かれないが、彼をTVで観た、元タクシー運転手の同僚の谷(尾美としのり)が登場する事で、彼の過去が徐々に明らかになって行く。

■宮前は、12年前まではタクシー運転手として両親を失った腹違いの妹、藍(中越典子)と共に過ごしていたのである。
 だが、藍を想う同僚の健一郎(津田寛治)から、彼と藍の関係性を詰られ、宮前はタクシー会社のロッカーで昏倒し、記憶を失ったのである。
 その後、彼は”記憶のないままに”京都駅で駅員に保護され、太秦撮影所で主に時代劇の端役をしながら、且つ生駒山のロープウエイの仕事もしながら、糊口を凌いでいたのである。

■これは、観れば予測が付くのであるが、宮前は自覚無き記憶喪失になったのではないかと思う。それは彼が記憶喪失になった時に診察した医者(黒田大輔)が言うように大した外傷にも関わらず、記憶喪失になったのは【精神的な理由】ではないかと言う事が分かるからである。

・詰まりは、彼 ー山下ー は健一郎に激しく糾弾された様に(映画では一切描かれない。そして、それは正解である。)両親を失った腹違いの妹、藍に対して親と思い育てていた筈が、意図せぬ恋心を抱いていたという事である。
 故に、山下は健一郎に糾弾された際にその真実を突かれ、彼自身の精神バランスにより【自ら、意図せぬ記憶喪失】になったのであろう。
 その事を、藍から”昔は、ホープを良く吸っていたよね。”と言われ、路上でそのホープを吸っている際に記憶を取り戻していくー 宮前 ーを演じた香川照之氏の微妙なる表情の変化は絶品である。

<今作は、香川照之氏の殆ど無表情と言っても良い抑制した演技と、邦画の名脇役である津田寛治さんの演技に魅入られる作品なのである。
そして、 実に巧い作品設定であり優れたる役者の演技を堪能する小品でもある。>

NOBU