劇場公開日 2022年11月18日

「広大なる湿地帯での、生の連環」ザリガニの鳴くところ かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0広大なる湿地帯での、生の連環

2023年7月14日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

原作はディーリア・オーウェンズの同名小説。

【ストーリー】
1969年、ノースカロライナ州。
湿地帯の物見やぐらの足元で、チェイス・アンドリュースの墜死体が発見される。
物見やぐらは足場の一部が外されており、保安官たちはそこから落下したと判断する。
チェイスは田舎町の上流階級に属する男で、彼と交流があり、殺害の動機もあるキャサリン・クラーク、通称「湿地の娘」が容疑者としてあげられる。
この片田舎の町に溶け込めず異物としてあつかわれてきたキャサリン。
彼女が幼いころ、飲んだくれのろくでなしの父親から絶え間ないDVを受け、母は去り兄もついて出ていった。
やがて父もその姿を消し、彼女は広大なる湿地のあばら屋で、たった一人で生きてきた。
収入は採取したムール貝を売る事で得ていた。
店を営むジャンピンとメイベル夫妻は情にあつく、幼い頃から裸足で貝を売りにくるキャサリンを、事ごと世話してやっていた。
思春期が訪れて美しく成長したキャサリンのところに、兄の友人のテイト・ウォーカーが訪問するようになる。
優柔不断だが優しいテイトは、彼女に読み書きを教える。
勉強が楽しくなり、生物のスケッチをためている彼女の成果を、テイトは出版社へと送る。
「詳細なスケッチに、見入ってしまいました」
好意的な返事があり、出版に前向きになるキャサリン。
だがテイトも、再会の約束を守らず、彼女の前から姿を消す。
孤独をもてあますキャサリンの前に現れたのが、傲慢さを隠しもしないチェイスだった。
とまどいながらチェイスと深い仲になるキャサリン。
だがチェイスには婚約者がいた。
それを知ったキャサリンがチェイスを避けると、チェイスはその横暴な本性をあらわす。
あわやのところで反撃して逃げたものの、チェイスに家を荒らされ、キャサリンは怯えて暮らすようになる。
町に戻ったテイトがキャサリンの身を案じるも、彼女はテイトを寄せ付けようとしない。
——そして、チェイスが物見台から謎の墜死を遂げる。
果たしてこれは殺人なのか事故なのか。
すべての情報が詳らかになり、評決の時がおとずれる。

舟でしか移動できないような、ノースカロライナ大湿地を舞台に、一人の女性が歩んできた人生がえがかれます。
美しい自然の中で、身を切られるような孤独と辛さ悲しさを描きつつ、生命に対する賛歌となっております。
それにしても主演のデイジー・エドガー=ジョーンズ、美しい。
大自然に負けず美しくて、彼女がいるだけで、風景を一葉の絵にしております。
アイテム面でも、貝のペンダントの使い方、巧かったなあ。

アメリカ南部の湿地帯という珍しい舞台の、抒情あふれるミステリ。
湿地の特異なる生態も楽しみつつ、じっくりと味わえる作品ですよ。

かせさん
こころさんのコメント
2023年8月26日

かせさん
「 ロング・ウェイ・ノース 」へのコメントを頂き有難うございます。
シンプルなようで繊細で美しい印象的な作品でした。
こちらの作品、とても見応えのある作品でした。一年以上前に図書館に予約した本が今手元に。沼地に生息する生き物の細やかな描写が具体的で、本作の美しい映像を脳内再生しながら読み進めています。

こころ