「日本(映画)ではこの辺りが限界なのか。というかこういう映画(笑いとウエットな人情もの)にしかならないのか。もう少し冒険して欲しかったな。」ひみつのなっちゃん。 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
日本(映画)ではこの辺りが限界なのか。というかこういう映画(笑いとウエットな人情もの)にしかならないのか。もう少し冒険して欲しかったな。
①私はドラッグクイーンものが大好きだ(TVでも『ル・ポールのドラッグレース』の大ファン)。
だから『プリシラ(The Adventures of Pricilla, Queen of the Desert)』(オーストラリア)も『三人のエンジェル(To Wong Foo, Thanks for Everything! Julie Newmar』(USA)も大好きな映画。
その日本版がやっと出て来たか、と期待半分、不安半分だったけれど、吹き出すシーンや良いシーンもところどころにあったけれども、全体としては不安的中というところ。
②なんと言ってもドラッグクイーン姿やその姿でのダンスシーンが圧倒的に少ない!ドラッグクイーン達の映画なのに殆ど「看板に偽りあり」のレベル。ほぼ唯一のダンスシーンは、モリリンとズブ子とが縁側で踊るところだけで、これはこれでモリリン役の渡辺秀とズブ子役の前野朋哉とが猛練習したからかなかなか良かっただけに(特にモリリンはなかなか“いい女”でもっと観たかったな…腋毛は気になったけど)、「えっ、これだけ?」と肩透かし。
バージンが最後まで踊らないのも(映画の中ではその踊りっぷりを持ち上げていたから余計期待するじゃないか)つまらない。
ラスト、郡上音頭の屋形の上でドラッグクイーンの衣装を着けて歌い踊るくらいのエクストラバガンダにしてくれたら面白かったのに。実生活ではあり得ないことでも、どうせエンタメなんだから映画の中だけでも夢を見させてくれても良いではないか。
③ロードムービーだから必然的に珍道中となるわけで、道中の会話はそれなりには楽しめるけれども、大概が所謂“おネエネタ”。いかにも“性自認が女性の男性”(正確にはこういう人達をおネエと呼びます)が言いそうな、悩みそうな、という世間的認識の範疇の上、おネエ或いはドラッグクイーンというのは“自虐的、笑いをとるもの、色物、肩身の狭い思いをするもの”という世間の眼を気にせざるを得ない、世間に受け入れて貰うには笑って貰うしかないネガティブな存在という捉え方から一歩も出ていない。
『プリシラ』の三人も『三人のエンジェル』の三人も、旅先や行き先で好奇の眼でみられたり、馬鹿にされたり、侮辱されたり差別されたりするけれども(大概男達から)、終始“これが自分だから”と毅然としていた。
本作では、自分を自虐的にみるだけでこの毅然さが感じられない。彼らに対する日本社会の対応・見方を反映していると言えばそれまでだけど。
④外国映画だと名のある俳優達のドラッグクイーンに成りきる演技にいつも感心して、海外の俳優は何でも出来る(それだけ努力しているということだけど)んだなぁ、といつも感心させられる。(そういえば『Mr.レディMr.マダム(La Cage aux Follesaux)』(フランス)や、そのUSAバージョンの『バードケージ(The Birdcage))』なんてのもあったなァ)
本作では渡辺秀と前野朋哉との成りきりぶりに感心した。演技力があるというよりも(勿論有るんでしょうが)、若い世代はもっと肌感覚でLGBTQ+の世界を感じているのかな。
そういう意味では、バージンとモリリンとがガン見しちゃうほどの好青年のスーパー店員(最初は単にそれだけのちょい役だと思った)が、ズブ子を連れ戻そうとするバージンに協力する件は、若い彼が彼女らを理解しているという事を意味していたのか(この辺り描写不足でモヤモヤ)。
モリリンはせっかくガタイのいいトラックの運ちゃんのオニイサンにコナかけられたのに、ガチムチのオッサン達の裸を見て逃げ出すほどウブだったのか、この辺りもモヤモヤ。
⑤それと、“お墓まで持っていく”つもりなら断捨離をちゃんとやっておかないと。夜の御商売をやっている人は身体を壊している人が多い(私の知っている範囲では、ですが)ので、何時病気になったり命を落としたりするかわからないので断捨離はしておくか、普段からそういう生活を送るのは止めておくか。
ママさん的存在だったからその辺りしっかり考えていそうなものだし、もしそうでないなら口で言っていただけで元よりその気はなかったのかも。
それに、葬式の時のお母さんの挨拶のなかで描かれていたような子供(人)であれば、自分がそういう自分であることを恥じるような、死んだ後まで隠しておきたいと思うような人ではなかったように思えて、少し違和感があった。
⑥実はお母さんは知っていた・気付いていた、というのはこういう話ではよくあるオチ。であれば、なっちゃんが棺桶から転がり落ちた時に、全身ドレス姿(出来ればラメ入りかスパンコール付き)だったらもっとインパクトがあったのに。
⑥この映画の中で一番可愛かったのは葬式の後の「私が知っていたことはヒ・ミ・ツね」と言った時の松原智恵子の笑顔。
もーさん、コメントありがとうございます。「プリシラ」見てないです。テレンス・スタンプって、パゾリーニの「テオレマ」の人ですよね。えーっ!知りませんでした。見たいです!プリシラ、プリシラ、見たい、見ます。