ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド : 映画評論・批評
2022年9月20日更新
2022年9月23日よりヒューマントラストシネマ渋谷、 池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかにてロードショー
「ホワイトアルバム」誕生秘話。ビートルズのインド瞑想合宿に偶然遭遇した男
このドキュメンタリーは、まさに「タイムマシンムービー」です。ビートルズが長期滞在していた1968年のインドに、我々を連れて行ってくれます。そう、本作の監督ポール・サルツマンは、ビートルズと同じ時期に、たまたまインドのマハリシ・マヘーシュ・ヨギのアシュラムに滞在していたのです。
とは言っても当時、サルツマン監督は映画の撮影機材を持ち込んでいたわけではありません。ただ、普通のスチルカメラを持っていて、ビートルズの写真をたくさん撮影していました。その写真を50年ぶりに引っぱりだして、色々なフッテージを加えて1本の映画にまとめあげたのです。ビートルズにまつわる映画は数多くありますが、本作は、ビートルズとは何の関係もないまったくの部外者の視点で描かれているので、相当にレアで、しかも新鮮です。
そもそも1968年のビートルズのインドへの旅は、「ガンジス川のほとりにあるマハリシのアシュラムで瞑想のトレーニングをする」という目的でしたが、ファン目線で言わせてもらえば、「『ホワイトアルバム』レコーディング前の曲づくりのための合宿」という認識でも間違いではないでしょう。
本作を見ると、少なくともジョン・レノンの以下の2曲は、彼らがインドに行っていなければ生まれていなかったと断言できます。
「ザ・コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロー・ビル」……叙事詩的な内容で、リリース当時、歌詞の意味はチンプンカンプンでした。この映画によって、この曲が生まれた背景がありありと再現できました。しかも、今はハワイに暮らすバンガロー・ビル本人も登場し、当時をふり返る……。50年ぶりに「そういう曲だったのか!」となりました。
「ディア・プルーデンス」も同様です。「やあ、プルーデンス。部屋から出てきて遊ぼうよ」って出だしで始まるこの曲は、「アルプスの少女ハイジ」のクララみたいな病弱な女の子に呼びかけた歌かと思っていました。まさか、ミア・ファローの妹プルーデンス・ファローに対しての、インドの瞑想アシュラムの部屋から出てこいよって呼びかけだったとは!
他にも、「オブラディ・オブラダ」の歌詞がサビしかない状態の様子とか、ジョージ・ハリスンがマハリシに新曲を披露したエピソードとか、この映画からは「無邪気な、ありのままのビートルズ」の姿がビビッドに伝わってきます。
さらにさらに、当時のジョージ・ハリスンの妻パティ・ボイドとか、その妹のジェニー・ボイドとか、ビートルズのインド旅行に帯同していた重要人物たちの証言インタビューがどれもツボにはまってて、とっても嬉しくなります。50年以上も前の旅なのに、みんなこの時の記憶がしっかり残っているんですよ。
この映画を見て「ホワイトアルバム」を聞き直す。今だからできる、ビートルズファンにとってのとても貴重な体験です。おなじみの楽曲に、インドの風景がシンクロするような不思議な感じ。是非お楽しみください。
(駒井尚文)