劇場公開日 2024年1月26日

「民族としての矜持」カムイのうた talkieさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0民族としての矜持

2023年11月13日
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鑑賞方法:試写会

観ていて、自然と頭が下がる思いでした。
徹底した和人(シャモ)への同化政策の荒波のなかでも、民族の尊厳を失わず、文字を持たなかった自らの民族の文化を後世に伝承する事業に、文字どおり心血を注いだ彼女の生きざまに。

涙こそ流れませんでしたが、それは、作品の完成度の問題ではなく、彼女のアイヌとしての矜持の高さに、胸はいっぱいにはなるものの、泣く余裕、暇(いとま)すら与えられなかったというのが、正直なところでしょうか。

決して「演技派」と称されるような著名な俳優さんばかりが結集して製作されている訳ではないのですけれども。
しかし、上映に先だってあった菅原監督の舞台挨拶にもあった通り、民族の問題を取り上げた作品の故に、当初に監督が想定していた人物からは出演の辞退が相次ぎ、その一方で、アイヌの方々からは「和人(シャモ)のお前に何が分かって、どれ程の作品が撮れるのか」と、これまた相次ぐ取材の門前払いを食わされるなど、幾多の困難を乗り越えて撮影が続けられ、遂に完成にまでこぎ着けた作品であるためか、どの俳優さんも、それぞれの役柄を一生懸命に演じる気持ちがスクリーンから溢れて伝わるようで、とても好印象がありました。

アイヌ文化の発掘・振興に19歳の(文字どおりに短い)生涯を捧げた知里幸恵を描いた一本として、彼女と縁(ゆかり)の深い近隣市が、作品の完成を記念して開催した特別試写会の選に当たったので、劇場公開に先駆けて鑑賞することができた一本になります。

試写会の「特別」の冠に決して負けていない、素晴らしい作品(佳作)であったと思います。評論子は。

talkie