劇場公開日 2023年1月27日

「伝記映画とは一線を置いた恋愛映画としたいのなら、後半もふたりの関係を軸においてほしかったです。」レジェンド&バタフライ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5伝記映画とは一線を置いた恋愛映画としたいのなら、後半もふたりの関係を軸においてほしかったです。

2023年2月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 東映の創立70周年を記念した大作。東映の手塚治社長は「この作品は総事業費20億円」と明かし「稟議(りんぎ)の判を押すときに少し手が震えましたが、これは東映が本気で本気であるということを申し上げておきたいと思います」と話したというくらいの、近年にはない邦画の大作です。

 戦国武将・織田信長を主人公とする時代劇ですが、その生涯や合戦の模様などを細かく描くのではありません。これは信長とその妻・濃姫が織りなす愛の物語なのです。
 タイトルの「レジェンド」は織田信長のことであり、「バタフライ」は「帰蝶」という呼び名があったと言われる信長の正室・濃姫を意味します。

 1549年。尾張の信長(木村拓哉)は、美濃の斎藤道三の娘・濃姫(綾瀬はるか)と政略結婚をします。ただ、実は信長の暗殺を図って嫁いできた濃姫と、横柄な信長とはそりが合いません。それでも、ある出来事をきっかけに次第に手を取り合うようになり、2人で天下統一への道を突き進んでいきます。

 のっけから、水と油の睨み合いが強調され、スリルと滑稽さに惹きこまれました。天下のドS夫婦といってもいいでしょう。でも、反発するほどに、なかなかお似合いに見えていくのは、木村と綾瀬の息の合った演技のたまものといえそうです。〝信長の野望〟の源泉は実は濃姫だったのではないかと思わせる、説得力を持たせるシーンが多々ありました。
 特に信長と濃姫が出会った日、初夜のシーンが強烈です。2人きりの部屋で大げんかが始まり、5分超にわたり取っ組み合うのです。迫力満点で面白みもあり、その後の2人の関係性の変化を描く上での起点となる重要な場面となっていました。

 なので物語の前半は、信長と濃姫の愛の物語としてちゃんと成立していました。しかし後半は次第に濃姫の存在感がなくなっていき、代わりに信長が戦いに明け暮れる中で手段を選ばない「魔王」と化していくさまが軸となっていくのです。
 伝記映画とは一線を置いた恋愛映画としたいのなら、後半もふたりの関係を軸においてほしかったです。ただし濃姫にはほとんど歴史資料が残されておらず、結婚後のエピソードを創作で作り上げるのは、いくら古沢脚本でも難しかったことでしょう。

 後半の「魔王」としての信長を描く展開にも問題があります。離反する明智との確執をしっかりと描くべきではないでしょうか。明智との確執の課程をほとんど省略して、いきなり本能寺に飛んでしまうのは、やはり違和感を感じました。

 いまいちな脚本を補ってあまりあるのは、木村のすごみのある演技。その目力に荒ぶる魂がほとばしります。
 NHK大河ドラマの信長役では重厚な渡哲也(「秀吉」)、人間味の反町隆史(「利家とまつ」)、ニヒルな染谷将太(「麒麟がくる」)などを思い出しますが、木村はその誰とも違う信長像を確立したのではないでしょうか。本能寺の変の切なさにもグッときました。
 そして綾瀬も、気の強さとかわいらしさを併せ持った濃姫にぴったりでした。桶狭間の戦いの前夜に信長が舞ったとされる「敦盛」を濃姫が舞う場面。扇子の代わりに槍を持ち、戦の勝利と無事を祈るしなやかな美は、綾瀬ならではの確かさで惚れ惚れしました。

 各地の国宝や重要文化財でも撮影された、荘厳な雰囲気をまとった映像も見どころです。清洲城や安土城など、信長の居城の変遷も楽しめます。総じてスケールの大きさに圧倒されること間違いないでしょう。

流山の小地蔵