「ハートウォーミング・コメディのお手本。 中学生にはリアリティが、ヤクザ屋さんにはファンタジーが、そして双方に適度な距離感をもたせる配慮があって、アッパレな作品。」カラオケ行こ! kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
ハートウォーミング・コメディのお手本。 中学生にはリアリティが、ヤクザ屋さんにはファンタジーが、そして双方に適度な距離感をもたせる配慮があって、アッパレな作品。
漫画が原作らしいが、原作を知らない自分としては躊躇してしまうタイトルだ。多くの人に鑑賞して欲しい映画なので、タイトルを工夫したほうが良かったのではないかと思うのだが、原作がヒット作ならやむ無しか。
野木亜紀子の脚本は、コテコテではない共通語仕様の大阪弁で、軽い掛け合いが程よく笑わせる。
特に学校のシーンは、今どきの中学生らしく大人びて洞察力に富んでいながら、思春期真っ只中の面映ゆい健全さがあって、瑞々しい。
山下敦弘の演出は実に上手だ。
ロケーションもセットも、恐らく制作費をかなり抑えたのだろうことは分かってしまうが、カメラ位置やカット割りを工夫することで、映画的なダイナミズムを感じさせる。…そう、これは確かに“映画”だった。
このような小ネタ(と言っては失礼だが)でも、劇場用映画に仕立て上げる見事な手本になっていると思う。
物語はバカバカしくマンガ的だ。原作が漫画なのだから当たり前だが。
ヤクザ屋さんたちは気の良い連中で、コメディらしくデフォルメされていてリアリティはない。
組長がカラオケ好きで組員にカラオケ競技を強いるという、そして最下位の組員には組長自らが彫り物を施すという、更にその彫り物は本人が一番嫌いなものがモチーフになるという、そのうえ組長は彫り物の技術が稚拙で絵心もないときた。
一方、主人公の少年が部長を務める合唱部は、全国大会に出場経験がある部活としてはこじんまりしているのだが、中学生なりの上昇志向を持った部員がいたりして、真面目で明るい部活とはこういう感じかと思う。
子供たちの中で生活している教師が子供っぽいのも面白い。
綾野剛が演じる組員の狂児(キョウジ)が雨に濡れて合唱コンクールの会場を通りかかるのだが、モンモンが濡れたワイシャツに透けている姿でホールに入れるとは思えない。だが、彼は合唱曲を聴くのだ。
この狂児に人情的な裏話があるのか、ないのか。それはさておき、カラオケのレッスンを合唱部の部長 聡実くん(齋藤潤)に懇願するので、困ったのは聡実くんだ。
ここからヤクザと中学生のドタバタ劇が展開するのかと言えば、ドタバタするのは聡実くんの心の中で、愛について思い巡らしたり、声変りでソプラノパートが歌えなくなったり、後輩に突上げを食らったりと、忙しい。
物語は、ヤクザが校門の前に現れても大騒ぎになるでもなく、親にバレるでもなく、微笑ましく進む。
聡実くんの家庭がまた面白い。
母親役の坂井真紀が上手いのだ。30年余りコンスタントに映画・TVドラマに出続けているベテラン女優の実力だ。NHK BSのドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」で演じた大阪のお母ちゃんも良かったのを思い出す。
聡実くんが幽霊部員の「映画をみる部」が、映画好きの心をくすぐる。
自分が中学生の頃ビデオがあって、放課後部室を暗くしてクラシック映画を毎日観ていられたらなんと幸福だっただろうか。
壊れたビデオデッキのエピソードが効いている。
たった一人の正規部員(井澤徹)が淡々としていて、聡実くんが逃避場所に選ぶ気持ちがよく分かる。
さて、物語の波乱は聡実くんの生理現象(成長過程や!)がきっかけで起きる。
真面目で正義感が強いが、思考が幼い下級生(後聖人)の反乱に対して、聡実くんに代わって対処する副部長女子(八木美樹)の包容力。
果たして、3年生最後の演奏会で聡実くんは歌うことができるのか?
乞うご期待!
…なのだが、期待を裏切るどんでん返しとも言えるし、本末転倒のトンデモ展開とも言える結末が待っている。
つまり、乞うご期待だ。
狂児と聡実くんの友情物語は過剰に発展することはない。
狂児は、ほんのチョット真面目な中学生に癒やされたかったのかもしれない。だが、距離を保つべきだと知っていたのだ。
聡実くんにとっては特異で貴重な経験ではあったが、それのお影で彼が成長するワケではない。
健全な中学生の生活をヤクザ屋さんとの付き合いで惑わせるようなことはしない物語展開に、好感が持てる。
狂児の思いを入れ墨で見せるラストシーンがニクイ。
コメントありがとうございます。
タクシーの子、何かの伏線かと印象に残ってたんですよね。
仰るとおり聡実くんがトロフィーを取りに行く理由付けかとも思いましたが、それにしては説明不足だし…
あの子があのあと出てきた印象もなかったので、モヤモヤしてました。笑
コメントありがとうございます。
山下監督の演出、野木さんの脚本が素晴らしかったです!
最初は遠慮していたのに、回数を重ねるごとに当たり前の様にチャーハンを頼む聡実君に笑いました♪私もよく子に「ひじーー!」って言うので、狂児がちゃんと注意していて嬉しかったですw
でも直さない聡実君ww
コラ〜〜w
「映画を見る部」いいですね。
私が頻繁に映画を見るようになったのは昨年からですが、中学生くらいからだったら、ずいぶんいろいろな映画を見れたことだろうな、と思います。また、その頃にしか感じられないものを得ることができたかも。
コメントありがとうございます。
合唱部の女の子、よかったですね。
kazzさんがおっしゃるように共通語仕様の大阪弁の掛け合いが、リズミカルで、とても心地よかったです。
ラストシーンの入れ墨は一瞬で、何が描かれているのか分かりませんでした。恒例のカラオケ大会で最下位となり、罰として組長に入れ墨を彫られたと思いました。
雪辱を期すため、また聡美君に稽古をつけてもらう電話したのかなと思ってました。
どうやら、間違って解釈したみたいです。