「遠いところへ、そして光の射す彼方へ」遠いところ Ao-aOさんの映画レビュー(感想・評価)
遠いところへ、そして光の射す彼方へ
印象に残る映画というのは、そのタイトル自体に深みがあると感じることが多い。そして、本作も例外に漏れず鑑賞後にタイトルの意味を噛みしめたくなる作品である。
沖縄に暮らす若年母子の視点から、貧困、家庭内暴力、未成年飲酒などの問題を描いた本作は決して軽い気持ちで見ることはできない内容だ。テーマだけで考えれば、ドキュメンタリー映画として描くことも可能であっただろう。しかし、本作はアオイという一人の女性の“物語”とすることで観客を彼女と同じ目線に合わせ、何気ない会話、殺伐とした部屋の様子などを通じ、過酷な日常を身近なトピックとして魅せてくる。
それでも、本作を嫌な気持ちにならず鑑賞できるのは、映像的な魅力で物語を牽引しているからであろう。夜の街を裸足で走り抜ける、おばあと海を見つめる、友人とファミレスで会話する、車の窓に映るネオン街の灯など、いずれも日常的なシーンでありながら、アオイのさりげない表情から彼女の気持ちを推察することで映画的な深みが徐々に増してくる。ラストカットに向かってアオイが走る場面は前半のキャバクラ店から裸足で駆け出す場面と対を成す名シーンだ。彼女がどこへ行くのか?どこへ向かうのか?と観る者の視点をスクリーンに集中させる。
劇中でアオイが言う“遠いところ”とはどこを指すのか?観客が見たアオイの日常は“遠いところ”の話なのか?その回答は観客に委ねられ、何通りもの解釈が生まれることだろう。ただ、私にはあのラストカットは未来に向けた希望の光が射し込む瞬間に思え、感情を揺さぶられるままにエンドロールを見つめていた。
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