「必要なセリフは「5つ」」愛する人に伝える言葉 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
必要なセリフは「5つ」
観ごたえがあった。
演劇学校の指導風景といえば、「ドライブ・マイ・カー」のあの稽古シーンが大変に面白くて興味があったのだが、
本作は 演劇学校の教師本人に降り掛かった「不治の病」が物語の核になります。
人生の終幕をどう演じ、自分の命をどのようにエンディングさせるのか、
明かりを落とした舞台(病室)の中央、独演会のスポットライトの光の中で、バンジャマン(ブノワ・マジメル)が、
その千秋楽を生き切ります。
【2つの学校】
ドクター・エデ役には、実際にがん治療専門医のガブリエル・サラが出演。
これが嘘のない臨床の実践をスクリーンで見せてくれるものだから、その説得力は半端がない。
彼のゼミ・カンファレンスは「入院患者とその家族のための終末医療」を、看護師や学生たちとのケーススタディで互いに学んでいる。そして技術と感情をスタッフ全員で共有している。仕事の充実度を日々深めている。
落ち込んでしまわないようにみんなで歌って笑う。
かたや演劇学校では、「誰かの真似事ではなく、本人の存在の内側から発生する感情とペルソナだけを爆発させろ」と、バンジャマンは火のような指導で生徒たちを鍛える。
奇跡の演技が生まれたときには、生徒も先生も感動で涙を流し、絶賛のコメントを飛ばす。
生徒を励ます。
この演劇学校の鍛錬と実演。
そしてホスピスでの医療者たちの研鑽とフィードバック。
これら「2つの学校」の「2人の主宰者」が、人間の生き死にについて がっつり四つに組むという、実に厚みのあるストーリーだった。
僕の大好きな俳優ブノワ・マジメルとカトリーヌ・ドヌーヴの 母子物ですから、これは観ないわけにはいきませんでした。
自身の死を受け入れきれない息子の苦しみ様と、嘆きうろたえる母親の姿が素晴らしい演技で迫ります。
ドヌーヴ。さすが大女優でした。
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【バンジャマンの死の瞬間・・バンジャマンは独りだ】
主治医は休暇で旅行中。
「君に会えて良かった」、
「さようなら」と、
病室の戸口で別れを告げて、ちゃんと自分の生活をも優先できるドクターのこの成熟度よ。
母親ドヌーヴは、息子がこと切れる瞬間には席を外して洗面所に行っていた。
そして息子レアンドルといえば、さんざん逡巡して病室の窓の下に立ち続け、一旦は病室のドアのノブを掴み、それでも彼は父親に面会しないことを選び。
子守唄のようなギターを枕元で、ボランティアのつま弾きを聴きながらバンジャマンは独りで死んでいった。
「レアンドルの血があなたには流れているのよ!」との看護助手の嗚咽の声も、おそらくは多分バンジャマンには聞こえていない。
そこだ。ありきたりな再会とか和解とか、そういう陳腐な感動の終幕にしない所が、特にこのフランス映画の優れている所だ。
不条理だが、リアリティの極みだ。
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僕は、死んだ従兄妹のことを思い出す。
苦労して医者になって、そしてあっという間にがんで死んだ子だった。
自らの生い立ちをバネに「患者と その家族を救う精神科医になること」。それが彼女の目標だった。
「頑張っていい医者になったのに死んでしまうのはもったいないね」と僕が訊いたら
「本当に自分が死ぬのはもったいないと思う・・」と言っていた。
患者が死ぬのは残念なことだが、医者が死んでしまうのもとても惜しいことだ。
僕としては治療費とホスピス入所を支え続けた2年間だったが、
ありがとうもさようならも言えずに終わった。
思うに、人って、自分の舞台を一人で生きて、そしてたった一人で死んでいくのですね。
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しかし映画は言う、
一人で死ぬ前に言うべきセリフがある。
【言うべき相手に僕はこれを言えるだろうか】
①「あなたを赦す」
②「僕を赦して」
③「ありがとう」
④「さようなら」
⑤「愛してる」
人生の演じ方や、
自分なりの人生の幕の閉じ方、
最後に言い残すべきこの「5つの言葉」、
これらを身をもってレクチャーしてくれる教師たち2人の、素晴らしい これは命の“学校”でしたよ。
そして
「あなたは十分に頑張った」―
「もう死んでもいいんだよ」―
なんという絶品の送り辞コトバだろう。
こんな言葉が我々人間には語れるのだ!
凄いよ。
光明が差しました。
教えてくれてありがとうと言いたい。
今晩は。
お久しぶりです。
今作は、私にとっては多分(そうありたい)随分先の映画だと思いましたが
1.「あなたを赦す」
2.「僕を赦して」
3.「ありがとう」
4.「さようなら」
5.「愛してる」
という言葉が響きましたね。
もし私がその様な境遇になった場合には、人生で最も大切なる人である家人に対して1.以外の言葉を残すと思います。そして、”貴女と会えて僕の人生はとても豊かになりました。”という言葉も添えたいと思います。
けれども、私は家人よりも長生きして、家人の最期を見守りたいとも思っているのです。では。
共感&優しさ溢れるコメントありがとうございます
鑑賞してしばらく経ちましたが
きりんさんのレビューを拝読し改めて見直したくなりました
お陰様で心も身体も安定した毎日を過ごせております
まだまだ素晴らしき作品に巡り合う為に健康でいなくてはですね!