ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE : 映画評論・批評
2023年7月18日更新
2023年7月21日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
妥協なし! 不可能を超えたアドベンチャー体験に大興奮の2時間43分
まったく、このシリーズに「妥協」という言葉は通用しないのだろう。我々はトム・クルーズが毎度、率先して限界越えする姿に驚かされてきたが、今回の完成度は過去作を凌ぐ。既に広く知られる「崖からの大ジャンプ」も確かに秀逸なのだけれど、筆者がそれ以上に恐れ入るのは、やはりトムとクリストファー・マッカリー監督が見せる研ぎ澄まされたコンビネーションだ。他の追随を許さぬ究極のエンターテイナーと、映画界最強のストーリーテラー。二人が呼吸を合わせて足を踏み出すと、現代で最もスリルとエモーションに富んだシークエンスが次々と生まれる。
それは例えば序盤、政府情報機関の要人たちが現状について語り合うシーンでも顕著で、マッカリーはここにひと工夫加えることで得体の知れない緊張感をじわじわと充満させる。動きが少ないシーンでも観客の目と心を惹きつけるのだから、やがて巨大舞台へ場を移すとどれほどの緊迫感に包まれるのか。期待は否応なく高まるばかりだ。
物語は様々な思惑を持った登場人物が入り乱れ、「あるアイテムを追え!」という伝統的なマクガフィン構造で突き進んでいく。砂漠で銃撃戦を繰り広げ、巨大空港内を全力で疾走し、ローマでは硬軟織り交ぜたカーチェイスが勃発……。どの場面にもシリーズ独特のタイムリミット感があり、メインテーマがもたらす破格の高揚感がある。
都市から都市へと移動するたび、その土地がもつ特色を高濃度でストーリーへと循環させる語り口の重厚さには舌を巻くばかり。さらにお馴染みのメンバーが相変わらずの存在感と絆とでミッションを支える一方、今回初登場となるヘイリー・アトウェルの役どころが颯爽としていて素晴らしい。グレースという役名にどこか往年の名女優を思わせる凛とした響きすら感じるほどだ。
CGで何でも描けて、AIが人間に取って代わろうかという現代に、本作は“生身の躍動”を実感させてくれるはず。不可能を超越するアクション同様、キャラとキャラが起こす化学反応もまたとびきりの生命力と、予想を超えたダイナミックな展開を作品にもたらしてやまない。トムが粉骨砕身で作り出す映画はやはり観る者の心を確実に捉え、そして魂の深部へと伝染する。気力がみるみる満たされていくこの感じ。鑑賞後、理由もなく全力で走り出したくなる映画も、実に久々である。
(牛津厚信)