長崎の郵便配達

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長崎の郵便配達

解説

名作映画「ローマの休日」のモデルになったと言われるイギリスのタウンゼンド大佐と、長崎で被ばくした少年との交流を描いたドキュメンタリー。

戦時中にイギリス空軍の英雄となり、退官後は英国王室に仕えたピーター・タウンゼンド大佐。1950年代にはマーガレット王女との恋が報じられ、世界中から注目を浴びた。その後ジャーナリストとなった彼は、長崎で被ばくした男性・谷口稜曄さんを取材し、1984年にノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」を発表する。谷口さんは16歳の時に郵便配達中に被ばくし、その後生涯をかけて核廃絶を世界に訴え続けた。映画ではタウンゼンド大佐の娘で女優のイザベル・タウンゼントが2018年に長崎を訪れ、著書とボイスメモを頼りに父と谷口さんの思いをひも解いていく姿を追う。

監督は「あめつちの日々」の川瀬美香。

2021年製作/97分/日本
配給:ロングライド

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映画レビュー

4.0人から人へ、過去から現在へ、思いを繋ぐ。

2022年8月18日
PCから投稿

英国王室に関心を持つ人なら、マーガレット王女とピーター・タウンゼンド大佐との悲恋はお馴染みだろう。Netflix「ザ・クラウン」でも描かれたこの逸話だが、まさかその後のタウンゼンド氏の人生をこのようなドキュメンタリーという形で、しかも「長崎で出会った日本人男性との交流」というテーマで窺い知ることができるとは思わなかった。父の遺した音声データを頼りにタウンゼンド氏の娘が長崎の街を巡る構成にとても胸打たれるが、さらに胸にしみるのはそこに鳥の鳴き声などの自然音が録音されていること。数々の過酷な証言を耳にした長崎の地で、タウンゼンド氏は何を思いながらこれらの音に耳を傾けていたのだろうか。そして彼は「谷口さん」の生き様に何を感じたのだろう。原爆投下時、谷口さんが従事していた「郵便配達」に重ねるかのごとく、人から人へ、過去から現在へ、”メッセージを伝え届けること”の尊さが、穏やかに浮かび上がる作品だ。

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牛津厚信

3.5純なる決意が描くリアル。

2022年8月10日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

ピーター・タウンゼント氏が残した著作『長崎の郵便配達』が、谷口稜瞭さんとの出会いから40年の時を超えて現代の日本に新たなメッセージを放つ。

この映画には、決して希望を捨てずに作家としての使命を自らに課して取材を続けた男の人間力がある。
同時に、被爆に直面して背中の皮膚を失い、床擦れで胸部の肉を腐らせた谷口稜瞭さんの、「こんな所で死んでなるものか、生き抜いてやる」と誓った生命力がある。
生きる力が未来を作る。そう信じたふたりが、生涯変わらぬ友情で結ばれたのは必然のことだった。

今から40年前、82年に収録された父の取材テープに耳を傾けながら、実の娘が長崎の道に立つ。目の前にある今の長崎に、父が歩いた長崎が、そして1945年8月9日に被爆した谷口さんの長崎が浮かび上がる。

書くことで伝えなければならないと決めた作家と、生きることで訴え続けなければならないと決意した被爆者。第二次世界大戦の英雄と敗戦国の汚点(敢えて汚点とする)を背負わされた平易の人。全く異なる境遇に生き、それぞれに戦禍にまみれたふたりが出会った時、未来への扉が生まれた。(扉は決して開かれてはいない。だからこの映画が作られなければならなかった)

父の遺志を伝えなければならないと感じた娘の元に、谷口稜瞭さんを知る映画監督が訪れる。タウンゼント氏と谷口さんの邂逅を、映画という伝達装置を使って飾ることなく描こうと試みる。ふたりの女性の出会いは時を超えて繋がれる奇跡の物語の始まりとなる。

この作品に通底するのは、強者による価値観のお仕着せが当たり前になった時代に対する問いかけである。誘導であってはならない。フェイクなんてナンセンス。過剰な装飾も必要ではない。等身大の姿を生々しく伝えるのだ。
今、世界が本当に必要としているのは、この純なる決意が描くリアルなのかも知れない。

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高橋直樹

3.5イザベラさんのカルマを感じる、長崎案件

2022年7月22日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

その昔、英王室のマーガレット王女と浮名を流したピーター・タウンゼンド大佐という将校がいました。王室との恋愛は周囲の反対で破談となりますが、タウンゼンドは後に作家となり、日本を訪れ、「長崎の郵便配達(Postman of Nagasaki)」という本を書きました。その後30年以上を経て、娘のイザベラ・タウンゼンドが、父の本「長崎の郵便配達」にインスパイアされ、そのモデルとなった谷口スミテルさんを訪ねて長崎にやって来るという話。「YOUは何しに日本へ?」の非常に高尚かつエモーショナルなバージョンといった趣で、とても引き込まれました。イザベラさんのカルマを感じます。

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駒井尚文|映画.com編集長

3.5しみます

2022年10月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

構成力の優れた力強いドキュメンタリーです。
撮影のアングルや構図など、ひとつひとつのカットに監督の映像センスの良さを感じました。それから編集のタイミングもいいですね。

日本の風物に彩られた夏。スクリーンに映し出される汗やその土地の空気……。
主人公のイザベルさんは父親の足跡をたどりながら、スミテルさんの人生もたどっていくわけですが、観ているこちらも一緒に長崎の街をめぐる旅に同行しているような気持ちになった。ちょうどお盆の時期に鑑賞したので、映画と重なって、より心にしみました。

とても素晴らしい作品なのですが、とても長く感じたのは、そこから伝わってくる「重さ」のせいでしょうか。

タウンゼンド氏の原作は『THE POSTMAN OF NAGASAKI』だけど、本作の英題は『THE POSTMAN FROM NAGASAKI』。
そこに監督たちの想いが込められているように感じます。

エンドロールのアニメーションもちょっと意味深ですね。

追記
僕は、長崎も広島も知覧も訪れたけれど、それらの旅であらためて思ったのは肌身で感じることの大切さです。やはりその土地・その場所に足を運ばないとわからないことがあります。
世界じゅうのひとりでも多くの人に、長崎や広島を訪れてほしいと思います。そして、感じてほしい。いろんなことを。

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peke