ヴィレッジ : インタビュー
【インタビュー】横浜流星&藤井道人監督が築き上げた“信頼関係” 「藤井組には孤独がない」
俳優の横浜流星と藤井道人監督が再タッグを組んだ映画「ヴィレッジ」が、4月21日から公開された。描かれるのは、「村」という閉ざされた世界を舞台に、そこで生きる人々のきれいごとだけでは生きていけないリアルな姿。出会いから7年、駆け出しの頃から刺激し合ってきたという横浜と藤井監督に、本作の話を聞いた(取材・文/編集部 撮影/山口真由子)。
【あらすじ】
美しい集落・霞門村(かもんむら)に暮らす片山優(横浜)は、村の伝統として受け継がれてきた神秘的な薪能に魅せられ、能教室に通うほどになっていた。しかし、村にゴミの最終処分場が建設されることになり、その建設をめぐるある事件によって、優の人生は大きく狂っていく。母親が抱えた借金の返済のため処理施設で働くことになった優は、仲間内からいじめの標的となり、孤独に耐えながら希望のない毎日を送る。そんな日常が、幼なじみの美咲(黒木華)が東京から戻ったことをきっかけに大きく動き出していく。
故・河村光庸プロデューサーの遺志を受け継いだスタジオ・スターサンズの製作チームが結集し、同調圧力、格差社会、貧困、道を誤ったら這い上がることが困難な社会構造の歪みといった、現代日本が抱える闇をあぶり出す。
深い余韻を与える本作の鑑賞後は、しばらく何も手につかなかった。時に目を背けたくなるようなシーンもあるが、物語が進むにつれ、絶望の底にいた優が希望を見出し、同一人物が演じているとは思えない程の変化を遂げていくさまにも驚かされた。藤井監督は「今まで見たことがない横浜流星でないと意味がない」「一皮剥けた流星が見られる映画になっている」と、横浜の新境地に自信をにじませている。
――脚本作りには横浜さんの意見も反映されているそうですが、お2人でどんなセッションを行いましたか?
藤井監督:1シーン1シーンこうしたいって深く話し合ったというよりは、優に共感したことを教えてもらったほか、お互いが悩んでいたことなどを優に落とし込んでいきました。雑談をしながらも、河村さんから受け継いだ「ヴィレッジ」の世界をどう作り上げていくかを脚本に盛り込んでいった感じです。
横浜:僕は絶対に渾身の脚本ができると思っていたので、いろいろ言うよりも、監督のことを信じて待っていました。役者という職業を続けるなかで、1年前の撮影時に感じていた恐れや戸惑い、怖さを監督にすべて伝えました。役者というのは、一つの失敗や過ちを許してもらえない仕事です。そこは怖いところですし、自分がそうなったら優と同じように転落していくんだという恐れがあります。
藤井監督:劇中では優が祀り上げられていく中で、村の顔みたいになっていきますが、その一寸先は闇なんです。またみんなに手のひらを返されるんじゃないか、村での居場所がなくなるんじゃないかと感じている部分や、笑顔に見えて本質的な笑顔じゃないところとか、優が転落していくさまでは、本来の俳優生活ではできないような感情を優に代弁してもらっています。
――横浜さんは今回ロケハンにも参加したそうですが、映画作りについて新たな発見はありましたか?
横浜:監督からロケハンに誘っていただいて、その日は優の家やごみ処理場など、優にとって大事な場所のロケハンをしました。どうして今まで参加しなかったんだろうって思うくらい、すごく大事な時間になりました。今までは当日に現場に行って、台本を読んで自分が想像していたイメージと違うこともあったので。時間を作ることができるのであれば、今後もロケハンには積極的に参加していきたいなと思っています。
――優は今までの横浜さんのイメージを覆すような役柄でした。新たな一面を引き出すにあたり、藤井監督は役者の皆さんとどのようにコミュニケーションをとっていますか?
藤井監督:一個の武器では勝負しないようにしています。7人いたら、7人それぞれ持っている武器が違います。その人たちに僕のやり方はこうなんですって言ってしまうと、だいたい摩擦が起きてしまいます。その人のことを決めつけずに、一番やりやすいやり方を探っていくことは大事にしています。ただ(横浜には)もう僕のやり方がバレてきていますけれどね(笑)。
横浜:いやいや、そんなことないです(笑)。
藤井監督:監督としての大事な仕事は、俳優の仕事をしっかり捉えることだと思っています。感情で演技をする人と、観客にこう見せたいっていう技術が長けている人がいるとして、僕はそのどっちも正解だと思っています。感情で演出する人には何度かやってもらって、編集で選択をします。流星は両方のタイプを持っていて、どっちもやってもらうので倍の時間がかかっています(笑)。
横浜:(笑)。 藤井監督は誰よりも理解してくれているので、毎回自分の知らなかった感情を引き出してくれます。どの現場でも監督を信じて突き進んでいますが、途中で悩んでわからなくなってしまい、“孤独”を感じてしまうこともあるんです。でも、藤井組には孤独がありません。藤井組だと心強い人が常に近くにいてくれるので、孤独を感じそうになっても救いがあります。いつもありがたいなと思っています。
――藤井監督は「新聞記者」から“社会派”と表現されることもあります。ご自身の現在地についてはどう考えますか?
藤井監督:やっぱり枠に括られたくないという思いがあります。「ヴィレッジ」をやったから次に「ヴィレッジ2」を撮るというのも違いますし、その時感じたことを、成功体験を持たずに挑める企画に自分の身を投じていきたいという思いがあります。「ヴィレッジ」の次に「最後まで行く」という真逆のタイプの映画を撮ったのも、自分自身何者かまだよくわかっていないからです。この時代に何ができるのか、常に模索していきたいと思っていますが、そのなかに“社会”がはらんでいるとは思います。ただ、“社会”を描くことが自分の特技のように映画を語れるような立場にはまだいないので、今はまだどんな球でも打ちたいなと思っています。
――本作のマスコミ試写は満席続きになり、業界内でも評判になっています。お2人のもとに反響は届いていますか?
横浜:仲良くさせていただいている「関ジャニ∞」の丸山隆平君や、同級生の岩谷翔吾からは、かなりの長文で「ヴィレッジ」の感想が届きました。丸ちゃんに関しては優の気持ちになって詩まで送ってくれました。こんなに人の心に届いたんだと思ってすごく嬉しかったです。
藤井監督:僕の前作が「余命10年」で、次回作が「最後まで行く」という作品なのですが、この2つの感想が結構似ているんです。「とにかくよかった、面白かった」みたいな。でも、「ヴィレッジ」に関しては「ここ数年の1本になりました」って言う人と、「すぐに感想が出ません」みたいな人がいます。それってすごく映画らしい体験だなと思うんです。自分で作っておきながら、みんながいいっていう映画って本当?って思ったりもします。「ヴィレッジ」の場合は、拒絶された方の感想を読んでもその気持ちもわかるなと思います。今までいろんな感想が出るような映画には僕がびびっていましたが、今回チャレンジできた部分なので、今は皆さんの感想を読むのが楽しいです。
――本作で6度目のタッグを組みました。さまざまなジャンルに挑んできましたが、次回はどんな作品を一緒にやりたいですか?
藤井監督:恋愛ものです。
横浜:確かに、恋愛ものをやりたいってよく話していますよね。
藤井監督:流星が30歳近くになったら、大人の恋愛作品も個人的に見たいなと思っています。ただ、2人で設定を決めようよって話していたときに、流星が「花屋がいい」って言いだして。
横浜:主人公は花屋によく通っていて……みたいな設定がいいです。
藤井監督:それだけで恋愛偏差値の低さがバレそうです(笑)。 ドラマ、映画、配信など特にこだわりはないので、また何か一緒にできたらいいですね。