「皆々の望みを叶え賜え」天間荘の三姉妹 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
皆々の望みを叶え賜え
何の情報も入れないで見たら…
海辺の町の老舗旅館。若女将として切り盛りする長女・大島優子と自由気ままに生きる次女・門脇麦の元に、腹違いの妹・のんが現れて…。
三姉妹や周囲の人々が織り成すハートフルな感動作。『海街diary』のような。
監督は北村龍平。アクションが多いこの人が感動作を…? そんな驚きもあるが、
実は本作、『スカイハイ』のスピンオフ。その昔、劇場版かTVシリーズを一話か二話見た事あるくらいだが、一応漠然とは設定は知っていたつもり。釈由美子の決め台詞「おいきなさい」は詳しくなくとも。
開幕早々、“この世”ではない設定は語られる。
のん演じる腹違いの妹は現世では生死の境を彷徨っている。
そんな人たちが訪れ留まる“天間荘”。ここは、現世とあの世の境の場所。現世に戻り人生を続けるか、天に行き生まれ変わるか、自分で選択する。
人の生死について問うヒューマン・ファンタジー。何にせよ、北村龍平がこの手のジャンルを手掛けた事はやはり驚き。
是枝裕和監督の作品で死んだ人の魂が留まる場所と人々を描いた『ワンダフルライフ』があったが、あちらのような何処か不思議な世界観ではなく、こちらもファンタジーではあるが、作風は完全ヒューマン・ドラマ。より等身大や身近に感じる。
旅館の雰囲気や過ごし方や仕事。まるでご当地お宿探訪ムービーみたい。素直に泊まってみてぇ…。こんな美人三姉妹も居る事だし。
客として留まるのではなく、働きを申し出る妹のたまえ。性格はとにかく明るくピュアでポジティブ。彼女自身の選択と成長の物語であるが、彼女のひたむきさが周囲の人々をも変えていく。あんなたまえの屈託のない笑顔を向けられたら。天賦の魅力。それは演じたのんにも言える。天賦の才。
長女ののぞみ。若女将として奮闘するも、まだまだ未熟者で、ある客に底の浅さを見抜かれる。真面目な性格故度々それが裏目に出る事も…。大島優子が好演。
旅館の仕事は長女に任せっきり。水族館でイルカの調教師として働く次女・かなえ。性格は自由奔放。漁師の青年・一馬と恋仲。自然体の門脇麦。
三人が織り成す姉妹愛の物語でもあり、家族の物語。
旅館の大女将の母・恵子。裏切った元夫を未だ許せず、元夫がよその女に産ませたたまえに当たりが強い。かと言って、実の娘たちにもガミガミガミガミ嫌みがうるさい。口も態度も性格も悪い。が、厳しくも一本筋が通っている所も。寺島しのぶが巧演。
姉妹喧嘩、親子喧嘩はしょっちゅう。結構キツイ事も言い合う。が、一晩明けたら…。皆で食べるオムレツの美味しそうな事。
三姉妹は父が同じで母親違い。その父親は…? 実は意外な近くに。
終盤はこの父親も含めて。確執や本音をぶつけ合って。
他人には分からない色々あったかもしれないが、何だかんだ最終的にはいい家族。特に現世で独りぼっちだったたまえにとっては。
お客様と、町の人たち。
長らく宿に留まる老女。頑固で扱いづらい性格だったが…。
見た目も言動も破天荒の若い女性。現世では人気のイラストレーターだったが…。
各々に訳ありの人生。
天間荘ではお客様にこれまでの人生が見える“走馬灯”を見せる。
後悔のない人生だったか、最低な人生だったか…? もしあなただったら、自分の人生を見る勇気がありますか…?
それは選択のきっかけにもなる。現世に戻るか、生まれ変わるか。
生まれ変わるからと言って、それは自分の人生からの逃げじゃない。文字通りの再出発。
いい事なんて一つも無かった人生に戻る。ここで得た事…美しいものを見る、初めての友達、それが出来たんだから現世に戻ってもきっと出来る。
老女役で三田佳子が存在感。
かなえの恋人に高良健吾、旅館の板前長に中村雅俊、現世のある男に柳葉敏郎…豪華なキャスト。
中でも案内人のイズコ。柴咲コウがミステリアスでクールな役柄でハマり役。あの名台詞も。
欲を言えば、釈由美子のSP出演もあったら…。
ここで、家族や多くの人たちと触れ合って、居場所を見つけるたまえ。
旅館の仕事に奮闘し、かなえに習ってイルカの調教も。
ずっとここで皆と暮らしたい…。
が、それは叶わぬ事。たまえもいずれは選択し旅立たねばならないが、たまえや客たちと姉や町の人たちとは事情が違う…。
姉や町の人たちは普通にここに暮らしているようだが、彼らもまた。が、たまえたちのように選択は出来ない。行く先は天に召されるだけ。まだそれが出来ずここに留まっている。何故なら彼らは…
あの日あの惨劇で、町もろとも一瞬にして命を奪われた。
原作者の高橋ツトムが本作を描くきっかけになったのは、東日本大震災。
突然、多くの人たちが命を失った。その魂を悼む。
命ある者、残された者。彼らの分まで、思いを胸に。
やり直せる者。ここでの出会い、触れ合い、癒しを胸に、新たな美しい人生を開く。
皆の望みを叶え賜え。
偶然にもスピリチュアルな作品を続けて見たが、本作が一番良かった。
北村龍平は怪獣王をとんだ駄作にして劇中の寺島しのぶよろしく許せないでいたが、少し救われた。
のぞみ、かなえ、たまえ ですね。いい映画でしたよね。原作者が本作を思いついたことが、一つの奇跡だと思いました。
本作を思い出させてくれて、ありがとうございます!