1秒先の彼 : 映画評論・批評
2023年7月4日更新
2023年7月7日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
「1秒先の彼女」を男女反転で絶妙アレンジ “ヒロイン”岡田将生が愛おしくてたまらない
“台湾ニューシネマの異端児”チェン・ユーシュン監督カラーに彩られた快作「1秒先の彼女」を日本でリメイクする。「あの強固な世界観をどうやって…」と小首を傾げつつ、布陣をみてみると「監督:山下敦弘×脚本:宮藤官九郎」という組み合わせに心躍る。では、その仕上がりは? これが見事な“再構築(+α)”となっていたのだ。
元ネタとなった「1秒先の彼女」は、何をするにも人より“ワンテンポ早い”郵便局員シャオチー(リー・ペイユー)と“ワンテンポ遅い”グアタイ(リウ・グァンティン)の消えた1日を巡るラブストーリー。日本版では、周囲より“ワンテンポ早い”男性・ハジメと“ワンテンポ遅い”女性・レイカの物語となった。つまり、男女のキャラ設定を反転。これが大正解だ。
ハジメを演じるのは、岡田将生。レイカに扮するのは、清原果耶。こう並べてみると「主人公役は岡田将生、ヒロイン役は清原果耶」と考えてしまいがちが、本作は違う。「ヒロイン役は岡田将生、真のヒロイン役が清原果耶」なのだ。忙しなく動いて愚痴り、いつだって物足りなさそうで不満気、でも周りには愛されている。台湾版のシャオチーらしさもしっかりと垣間見える、そんな岡田将生の姿。愛おしくてたまらない要素だらけ……きっと“好き”になってしまうだろう。ヒロイン役の岡田将生には、それほどの魅力が兼ね備わっていた。
「1秒先の彼女」も「1秒先の彼」もポイントとなるのは“視点の切り替わり”だ。ある事象を別の視点から観察してみると、全く異なる意味合いが浮き彫りになっていく。自身の“目”を通じて、時には一眼レフカメラのレンズを介して、真のヒロインとしての視点を担っていくレイカ。演じる清原果耶は、セリフが少なくとも、その場に存在しているだけで“雄弁に物語る”。各シーンを微笑ましく眺めながらも、その比類なき才能をまざまざと見せつけられてしまった。
日本版ならではのアレンジも◎。例えば、日本版の舞台は京都。「1秒先の彼女」を見終わった後に感じた「現地(=台湾)に行ってみたい」と同じような感覚を抱いた。つまり、ロケ地がしっかりと作品にハマったと言えるだろう。そして、ストーリーの根幹を成す“消えた1日”にも、日本ならではの試みが行われている。男女反転に伴う問題、事象に誘う仕掛けなどをユニークな方法で解決。山下&宮藤コンビが“チェン・ユーシュンらしさ”にどう立ち向かったのか。つぶさに観察していくと一層楽しめるはずだ。
(岡田寛司)