「 「ゲット・アウト」(2017年)と「アス」(2019年)でホラー...」NOPE ノープ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
「ゲット・アウト」(2017年)と「アス」(2019年)でホラー...
「ゲット・アウト」(2017年)と「アス」(2019年)でホラー界に新風を吹き込んだジョーダン・ピール監督の新作。
今回はSF色が濃く、空飛ぶ巨大な円盤にまつわる恐怖が描かれます。UFOという題材に挑戦したといっても斬新なプロットのひねりで鳴らす俊英の新作だけに、単なる空飛ぶ円盤の話ではありません。種明かしは見てのお楽しみとして、SF的な奇想と西部劇風の原風景を融合させた映像の雄大さに目を奪われました。
舞台は南カリフォルニア、米ロサンゼルス郊外の黒人が経営する平穏な牧場で、牧場主のオーティス・ヘイウッド・Sr. (キース・デイヴィッド)が空から降り注いだ異物の直撃を受け、死亡します。
亡き父から牧場を継いだ長男OJ(ダニエル・カルーヤ)は、半年前の父の事故死をいまだに信じられずにいました。「形式上は、飛行機の部品の落下による衝突死とされている。しかし、そんな“最悪の奇跡"が起こり得るのだろうか?」と。
何より、OJはこの事故の際に一瞬目にした飛行物体を忘れられずにいたのです。そして父が亡くなった日に飛行物体とおぼしき“何か”を見たと、牧場の共同経営者である妹のエメラルド(キキ・パーマー)に明かすのでした。
エメラルドはこの飛行物体を撮影して、“パズり動画"を世に放ち、一獲千金を狙おうと動き出します。
やがて起こる怪奇現象の連続。それらは真の“最悪の奇跡"の到来の序章に過ぎませんでした……。
難解さの一因は最後まで明確に意味が明かされないことによるもの。断片的にちりばめられた要素の数々はなかなか収斂されないのです。また消化不良気味のサブストーリーのせいで、中盤のテンポがもたつくのは難点で、退屈する人もいるかもしれません。
しかし、飛行物体の姿がはっきりと映し出されて以降の映像美と、最終盤のテンポの良さは目を見張るものがありました。
兄妹が呼んできた著名な映画監督アントラーズ・ホルスト(マイケル・ウィンコット)がUFO撮影用に手回し式のアナログカメラを持ち出すなど、細部のマニアックな描写も面白いところ。新鮮な驚きに満ちた見せ物映画でした。
草創期から黒人が関わっていたのだ、という演説のあたりまでは社会派ホラーのピール監督節です。
黒人差別の深層心理を暴いた「ゲット・アウト」、格差社会に鋭く切り込んだ「アス」に比べ、残忍な描写は抑えられています。夏休み向けの大作を志向したからでしょう。ただ、娯楽性と社会性を両立させるピール監督の作風は揺らぎません。直視してしまうと巨大な円盤が直視した人間を襲うというシーンに象徴される、壮大な光景や出来事、つまり「スペクタクル」(見せ物)に固執する人々と、社会にはびこる搾取への問題提起が確かに感じ取れました。
しかし物語は次第にシャマラン風のこけおどし的壮大さへと向かっていきます。日本アニメ風イメージまで加わって、こんな原始的な方法でモンスターに立ち向かう方法があるなんて!とあっけにとられる結末に。良くも悪くも期待は裏切ってくれました(^^ゞ(^^ゞ(^^ゞ
ところで中盤で登場する殺人チンパンジーは何だったのでしょう。よく分かりませんでした。