「ジュープを主役にした方が……」NOPE ノープ ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
ジュープを主役にした方が……
冒頭でチラ見せされる血まみれのチンパンジーや、スタジオでふいに跳ねる馬などは、いい感じで不穏な空気に満ちていた。
つかみがよかったので、”最悪の奇跡”の種明かしはもっと怖いものをついつい期待した。それが、結果的にほとんど怖くないまま終わったので拍子抜けしてしまった。前半、思わせぶりな描写や、怪しいものが近づいてきたと思わせてなんちゃって違いました、というくだりが少し長過ぎて、待ち疲れした。これやあれは伏線で後で何かと繋がるのかな?人間に使役される馬やチンパンジーの怨念による超常現象かな?(笑)と思っていたらあまり繋がらず終いだった。チンパン惨劇の現場で、女の子の靴が立っていたのは何だったんだろう。
物語冒頭で、旧約聖書ナホム書の一節が示される。
「私は汚らわしいものをあなたに投げかけ、あなたを辱め、見せ物にする」(3章6節)
ナホム書は、暴虐により長年中東を支配していたアッシリアがバビロンによって滅ぼされることについての預言書だ。教えを軽んじる尊大な権力者には、神の裁きがくだる。
本編がどこまで聖書を絡めた話なのか分からない。キリスト教を下敷きにした映画では毎回思うことだが、ピンと来ない部分は私の知識不足によるものなのかもしれない。
パンフレットのネタバレ解説をちょっとだけかいつまむと、ヘイウッド兄妹とジューブはハリウッドで「見過ごされた人々」(人種差別で)という共通点があり、チンパンジーはアジア人俳優のメタファーである、だから幼いジューブを襲わない、暴れ出したのはステレオタイプなキャスティングへの怒りを表す、のだそうだ(日本人ライターの書いたものなので、監督の意図がこの通りかは分からない)。ジューブが見せ物として操ろうとして失敗したあのラスボス飛行物体は、あらゆるものを見せ物として消費しようとする人間の欲望ということらしい。非アジア人監督がアジア人のメタファーにチンパンジーを使ったのだとしたらあまりいい気はしないが。
いろいろと合わせて考えると、ハリウッドにおける長年の白人優位の構造にフィクションの中で天の裁きをくだす話、だとか、動物や自分の命を危険に晒す超常現象まで消費対象にしようと集っていく人間の欲望の愚かしさが受ける罰、といった考察も出来るのかもしれない。
なお、監督自身は「自分が見たいのに存在しない映画(中略)とても怖いUFO映画」を撮りたかったと言っている。また、「僕自身とハリウッドの関係にもとづいて」ジュープのキャラクターを作り出したそうだ。ジュープは「ある意味自伝的なキャラクター」なのだという。
個人的には前置きが長くてフェイントが多過ぎたのと、飛行物体の怖さが今ひとつだった(チンパンジーの方がよほど怖かった。目を見なければ襲われないというので怖さ半減。アドバルーンを食べて爆発する最期も何だか地味だった)のとで、単純にあまりハマれなかった。電気屋のエンジェルのキャラはほっこりさせられて好き。最後まで撮影を諦めないヘイウッド兄妹は、現代だなあという感じだった。唐突なAKIRAオマージュには笑った。
むしろ数奇なトラウマを持つジュープを主役にして、ずっとジュープ目線で描いた方がホラーとしては面白そうだ。
かいつまんでいただいたネタバレ解説だと確かにあまり腹落ちできないですね😅
チンパンジーはどちらかと言うと、差別というよりは何かを決めつける側の傲慢さへの鉄槌のようでしたし、ヘイウッド兄も父親を越えられない葛藤やもどかしさのほうがメインで、ハリウッドの体制からの差別と抵抗、という文脈ではなかったように感じています。
ニコさん。イイねコメントありがとうございました。おっしゃるとおりフワフワで抽象的。モヤモヤでした。確かに複雑な思いをこの作品に込めた監督の意図もわからなくはないですが、チョットわかりにくすぎでした。激しく共感です。ありがとうございました。\( ˆoˆ )/\( ˆoˆ )/\( ˆoˆ )/