「復讐は運命じゃない」ノースマン 導かれし復讐者 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
復讐は運命じゃない
舞台は10世紀の北欧の王国。ヴァイキング伝説を題材に、北欧神話を絡めて。
そう言われると日本人には馴染み難そうだが、大まかな話は何て事ない。
父王を叔父に殺された主人公の復讐劇。
『ハムレット』『ライオン・キング』『バーフバリ』を彷彿。『ハムレット』のモデルとされる“アムレート伝説”がベース。
でも、ただそれだけじゃない。単純ではない善悪、己の運命、壮絶なドラマや映像美やアクションに圧倒される。
監督は俊英にして鬼才、ロバート・エガース。
『ウィッチ』や『ライトハウス』などスリラー/ホラーを手掛けてきたが、新境地の史劇アクション。初挑戦のジャンルでもその類い稀な才を存分に発揮。
ヴァイキングの営みや風習。美術や衣装に至るまで、徹底的にリサーチ。作り上げたとか再現したではなく、そこに今根付いているようなリアリティー。
ダークながら荘厳。叙事詩的な映像美は圧巻。神秘的でもある。
アクションやバイオレンスは凄惨。血はおびただしく流れ、身体は切り落とされ、内臓も露出し…。野蛮ではあるが、荒々しく猛々しく、一切の妥協はナシ。
初挑戦のジャンルは元より、まだ長編3作目。小規模から一気に大作へ、臆する事なく、こだわりと作家性を貫くスタイルは、もはや名匠の域。
プロデューサーも兼任のアレクサンダー・スカルスガルドは前々からヴァイキング題材の作品を構想。10年の歳月をかけて実現。入魂の熱演からもその熱意が窺える。
『ウィッチ』からアニャ・テイラー=ジョイ、『ライトハウス』からウィレム・デフォーが引き続きエガースをサポート。アニャの美貌も映える。
イーサン・ホークやビョーク、実力派と異色のキャスティング。
中でも叔父役クレス・バングと母ニコール・キッドマンの存在感。特にニコールは凄みすら。何故ならその役所が…。
父王を殺され、母は捕らえられ、国を追われたアムレート。屈強なヴァイキングとなり、預言者の言葉で己の運命と使命を思い出す。奴隷に身を隠し、復讐を…。
父の仇を取る!
母を救う!
叔父を殺す!
母と再会。母も夫を殺され、息子を失い、憎き相手の身に落ち…。
悲劇的な母を、息子がヒロイックに救う…そんなド定番になるかと思いきや、
夫であった王は野蛮人。奴隷にされ、犯され、お前が生まれた。
元々夫など愛していない。お前の事も。しかしそれでも母と息子。母は息子を愛し、息子は母を愛す。
そんな野蛮な夫に比べ、叔父は愛情を示してくれる。
そもそも叔父の謀反ではなかった。野蛮な夫を殺してくれるよう叔父に頼み…。
母から明かされる、衝撃の真実…。
助けようとした母こそ、元凶。
誇り高き王で戦士と思っていた父こそ、極悪人。
復讐相手の叔父こそ、国や民を率いる王に相応しい…?
善悪が逆転。それはアムレート自身も。
復讐心に駆られ、罪も無き叔父の子供、弟たちを殺す。
ヒロイックな戦士の姿など微塵も無い。父親と同じ、野蛮で獣のような憎悪。
叔父も憎悪をたぎらせる。
憎しみ対憎しみ。復讐対復讐。
これが運命なのか、使命なのか。逃れられないのか…?
よく復讐は愚かで身を滅ぼすというが、あまりにも凄惨で、まじまじと見せつけられる。
預言者からの言葉。運命が“乙女王”に繋がっている。
ある女性との出会い。間に新たな命を宿し…。
王家の血は受け継がれていく。
復讐ではなかった。これが運命だった。
ヴァルハラも迎え入れてくれよう。