「芸術に生きる人々のシニカルな批評であり、讃歌でもある」ショーイング・アップ 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
芸術に生きる人々のシニカルな批評であり、讃歌でもある
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なにか大きなことが起こりそうで起こらない、観る人によってはもどかしいがクセになったら味わいがどんどん増してくる実にケリー・ライカートらしい映画。基本的には、オレゴンの美術大学を中心としてコミュニティに暮らす芸術家と芸術家の卵たちの日常が、かなり人に対して感じの悪い主人公を中心にして描かれる。芸術家といっても浮世離れはしていられず、日々の中には地に足のついた悩み事もあれば、創作に苦しむこともある。主人公が感じが悪いと書いたが、それを言うならホン・チャウ演じる隣人で友人で敵みたいなキャラも含めて、大抵の登場人物は大なり小なり感じが悪い。しかし、芸術という共通項で繋がっている彼らは、相手に才能があればどこかで認められてしまう感覚があって、そこが一般的な日常との最大の差異になっているのが面白い。表現を志す人たちへの皮肉な眼差しがあると同時に、彼らへの讃歌でもある。芸術を描いた作品はクリエイティブ至上主義に陥りがちだが、シニカルとポジティブを両立させたバランス感覚がよい。あとラストカットがいい意味でズルいよ。
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