「芸術の街、ポートランドで芸術家として生きること」ショーイング・アップ 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
芸術の街、ポートランドで芸術家として生きること
アメリカ、ポートランドで彫刻家をしているリジーは作品作りに集中できてない。隣人に給湯器を直すようしきりに催促しているのだが、まるで取り合ってくれないし、飼い猫が傷つけた鳩を獣医に連れていく羽目になるし、同じくアーティストの兄は家に引き篭もり状態だし。そんな芸術家の煩わしい日常が、一見、何の目的もないかのように綴られていく。
ところが、リジーがありきたりの集中力を投入して完成させた、指先で女性の苦悩と表情を表現した粘土彫刻は、個展のテーブルに何点か並べてみると、見事なアートとして仕上がっている。才人の物作りの工程というのは、えてしてこういうものかもしれない。
舞台になるポートランドは芸術の街として世界に知れ渡っていて、街にあちこちにペイントアートやギャラリーが点在している。だからアートが好きな人にとっては天国だろうが、そこで物を作る芸術家たちにとっては、意外に息苦しい場所かもしれないと感じた。まして、リジーの母親は彼女の母校であるオレゴン芸術工芸大学の美術管理者だし、兄が引き籠りになったのはどうやらクリエイティビティに限界を感じたから?みたいだし。
そんな芸術家たちの苦闘と自由に空が飛べる鳩とを対比させることで、作品のテーマがさりげなく明かされるケリー・ライカートの『ファースト・カウ』に続く最新作。日々の葛藤とそこから抜け出す瞬間の喜びは、誰もが共有できるに違いない。
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