「名誉殺人」聖地には蜘蛛が巣を張る レントさんの映画レビュー(感想・評価)
名誉殺人
一族の女性が婚前交渉や不倫をしたり、あるいはレイプなどされるとそれを一族の名誉を汚したとして残虐な方法で殺してしまうという風習がイスラム教圏の国を中心として今でも行われているという。
男は女性に貞淑を求める傾向にある。そのような男の歪んだ願望が高じて自由恋愛などをする女性を否定し、宗教的教えを曲解して結び付けた結果、風習として長きにわたり地域社会で行われてきたのだろう。
本作の娼婦連続殺人もそんな名誉殺人と同じ延長線上にあったものと思われる。なぜなら犯人に対して多くの大衆は共感して賛辞を贈っていたからだ。性に奔放でふしだらな娼婦は殺してもいいんだというように。
人類史上女性は肉体的に男性に劣るという考えから女性に対する差別は古代からあった。それが特に西洋では宗教がはからずも後押しして女性差別が長きにわたり社会に根付いてしまった。
例えばイスラム教には家計は男が支えるものという教えがある。これは単に男女の役割分担を定めたものだが、この教えは家父長制と親和性が高く、女性差別を正当化する口実になってしまった。
女は男に従い、家に収まっていればいい。男の言う通りおとなしくしていろと。このような考えが根付いてしまったがために、女性の生き方や性格まで自分たちの都合のいいように押しつけてそれに反するなら殺してもいいという発想が生まれる契機になってしまったんだろう。
このように差別されてきた女性たちは男性のように自由に職には就けず、貧困の中、身を売るしかほかに方法がなくなる。つらい仕事ゆえドラッグなども手放せない。そんな状況下に女性を追い込んでおきながら、薬まみれの汚らわしい娼婦だと蔑む男たち。
連続殺人についても警察は野放し状態で本気で捜査する気もない。娼婦がいなくなれば町が浄化されて結構なことだと言わんばかりだ。
本来なら女性の地位を向上させて売春せずとも生きられる社会を作ることこそが浄化といえるだろうに。真に浄化すべきはこんな男社会だ。
宗教によって後押しされて長きにわたり社会に根付いてしまった女性差別。犯人は処刑されるもその息子が後を引き継ぐかのようなラストで終わるさまを観て差別の根深さを感じさせられた。
ちなみに夫婦選択的別姓に反対してる人たちは日本の古き伝統たる家父長制を守るべきだと主張してるけど、日本においては江戸時代まで家制度自体はあったが、家父長制のように父権が強いわけではなかったし、夫婦も別姓が当たり前だった。それを明治政府が日本を西洋化するために家父長制を取り入れて夫婦同姓を法制化しただけのことなんだけど。
共感そしてコメントありがとうございます。
日本のジェンダーギャップランキングが125位。
イランが143位で、ほぼ変わらないんですね。
ヒジャブを強制されてる国よりはマシだと思いますが、
シングルマザーに子育てを押し付けて養育費を払わない男性には怒りを覚えます。子育てと教育という一番大事な事をシングルマザーに丸投げしている
社会はやはりジェンダーギャップが低い・・・そう言われても弁解できませんものね。
色々考えさせられる映画でした。