劇場公開日 2023年4月14日

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「事件が辿る異様な展開に震撼させられる」聖地には蜘蛛が巣を張る 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0事件が辿る異様な展開に震撼させられる

2023年3月31日
PCから投稿

かつて北欧映画「ボーダー」を観た時の胸騒ぎが忘れられない。周囲との距離感、はたまた自分は異質な存在なのではないかという疑念はイランを舞台にした本作(内容は全くの別物だが)でますます顕著化しているかのようだ。もともとイランで生まれ、大学で学ぶために北欧での生活を始めたアリ・アッバシ監督にとって、二つの領域の間で揺れる日常は極めて身近なものだったはず。そんな彼が二十歳前後だった2000年初頭、母国で起こったのがスパイダー・キラー事件だという。このクライムサスペンス映画が特殊なのは、娼婦をターゲットに殺人を繰り返す犯人の素顔を最初からはっきりと写しつつ、そこに女性記者の奮闘をも描きこむところ。そうやって浮かび上がるのは、女性への文化的、宗教的抑圧の状況だ。単なる犯罪劇を超えた異常事態が蜘蛛の巣の如く社会へ広がっていく様に震撼させられる。リスキーな役柄に身を投じた主演二人の演技も実に見応えがある。

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牛津厚信