「決してグロゴアフィクションではない」哭悲 THE SADNESS 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
決してグロゴアフィクションではない
謎の感染症アルヴィンが蔓延した台湾。
しかし、風邪のような軽度な症状に人々の警戒心は緩んでいた。
そんなある日、そのウイルスは邪悪なウイルスに突然変異する。
涙を流しながらも街で無慈悲に殺し合う人々、誰彼構わず襲いかかる強姦魔。
倫理観の崩壊したこの世界で1組のカップルは無事に再会し助かることができるのか。
今年1番悲しい映画。
哭悲というタイトルがとてもしっくりきた。
一応これはゾンビ映画ということで良いのだろうか。
ゾンビといえば生ける屍。
脳は死んでいるけれど体は生きている、だから怖いというのが大前提だった。
その常識を今作は180℃ひっくり返す。
人々は酷い罪悪感に苛まれながらも、強力な欲望に抗えずに蛮行を繰り返してしまう。
要はゾンビといえども脳は生きているということ。
「それはあまりにも生きている者にとって都合が悪すぎないか?」と言いたくなるがその通りでまさに地獄以外の何者でもない。
ただ、欲望に塗れ狂った感染者の姿は人間の本質にも思えた。
昨今の情勢や事件と酷似しておりとても他人事では済まされない。
電車内の惨劇なんか毎朝の通勤通学時に起きないとも言えず、自分自身少し挙動不審になってしまっている。
決して肯定は出来ないが、欲望という意味ではみんなこういった凶暴性をどこかに秘めているのかもしれない。
例のおっさんがカイティンに「あんたも俺らと変わらない」と言うシーンがサラッと出てきたけど、実は常人こそ狂人なのかもしれない。
怖くもあり悲しくもあり。
ご近所付き合いが無くなったり、人への興味が薄れたり、何かと他人と距離を取りがちな今日この頃。
ただグロいだけで片付けてしまいたくなるが、監督なりのメッセージ性を強く感じた作品でもあった。
一変した日常、地下鉄の惨劇。
前半は勢いがあって常にドキドキだった分、残念ながら中盤から後半への失速感が否めない。
ただ、ラストの別れ。
あんなに悲しい別れのシーン、少なくとも今年は観ていない。
しかも、何となく予想は付いていたけど、彼女のあの結末って…
そういうことでしょ…
良い人も悪い人もみんな壊れていく最悪な世界、本当に救いがない。強姦描写があまり強すぎないのが唯一の救いだったかと。
今回、自分はグロ耐性が高い方とかではなくグロ耐性がバチバチにある方だということをようやく理解した。
ただ、体力使う映画には間違いない。
とにかく体力使ったし、あまりの惨状にずっと口が開きっぱなしで喉が乾いた。