劇場公開日 2022年7月22日

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「予算の厳しさが透けて見えた」島守の塔 コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5予算の厳しさが透けて見えた

2022年7月22日
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沖縄の「見捨てられた感」を全面に出した作りでした。
大本営の無策と本土攻撃を遅らせる時間稼ぎの方針により、軍部は沖縄を見捨てたと。
そのせいで、第32軍司令部 牛島司令官らは、沖縄県民を巻き込んで無駄死にしていき、沖縄県民の4人に1人が亡くなったという描き方。

国体・国家奉仕を口にする者は、無辜の市民を死なせ、責任の取れない命令を出しておきながら、まともな判断もできず、国民を見捨てるという点を強調していました。
ここに加えて米支配時期に受けた差別、日本返還されたが福祉もライフラインも放置されて、未だ基地を押し付けられてりゃ、沖縄の人々が本土を信用できないって姿勢も理解しやすい流れは見えてきます。

物語として、島田も荒井も、文官として軍の方針最優先だったのに。
そんな中で、最後の最後に、せめて生き残った人々を疎開させよう…… と決意した(今の時代に尊敬され碑がたった)としても、手遅れよね、と。

一番良かったのは、標準語教育の熾烈さと、方言(沖縄語)を使うとスパイ扱いされて銃殺された事実を逃げずに描いていたこと。
あと、末端の(沖縄出身ではない)兵士は、平気で住民を捨て駒扱いし、住民を逃げた壕から追い出して食料を奪ったなどのシーンもあったこと。

厳しかったのは、明らかな低予算制作で、戦闘や空襲のシーンはほとんどなく、過去の記録映像を使っている点。
カツカツなのはわかるが、会話劇だけになっちゃってて。
最近だと、『峠』に印象が近いです。

この手の映画では、軍部が悪い、いかにも洗脳された子ども達や若い兵士が愚かな被害者だ、って描写が多いのですが。
(それもまた、過去を反省しつつ、悲劇を繰り返さないためには大事ではあるのですが)

・日本側の戦争回避できなかった外交の不始末(この点はアメリカや他の連合国にも責任はあると思うが)
・戦争に突き進むように煽った国民、同調圧力さえ伴った時代の空気
・アメリカや連合国の戦力分析を怠った軍トップ、政治家、官僚などの責任
・体裁やプライドだけを考えて、戦争の止め時を間違えたこと、降伏敗戦受け入れの遅さ
などへ言及することが少なく。

戦後ドイツのように、ちゃんと分析と反省を踏まえた学校教育等を日本はやってないので(この辺、東京裁判も、教科書等へ載せる史観も「曖昧にする」が主軸みたいだから)仕方ないのではあるが。
大本営に従った現場レベルのことだけを描写して、感情に訴えていいのかな、というのがモヤモヤポイント。
昔ながらの「戦争の悲惨さ」「住民はアメリカと日本軍部の被害者」だけに絞って作りつつ、現代の価値観で当時をただ否定するタイプの映画が、最近は陳腐に感じてしまう私でした。

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コージィ日本犬