「英国では珍しいロードムービーを人情味豊かに仕上げた名作」君を想い、バスに乗る 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
英国では珍しいロードムービーを人情味豊かに仕上げた名作
イギリスの端から端まで、高齢のおじいちゃんが路線バスを乗り継いで旅をする。そんなティモシー・スポールの相貌と過ぎゆく車窓の風景を見つめるだけで、胸の辺りがキュッと締め付けられるのを感じる。主人公トムの距離移動は、そのまま彼の心の移ろいをも表しているのだろう。ジョン・オグローツからランズ・エンドへと進むにつれ、記憶の中の「若き夫婦」が時間を逆戻りしていくという構造がシンプルながら味わい深い。それに彼の旅がこの国で暮らす幅広い世代、多様性に富んだ人々との出会いの連続となるのも面白い。そこでの交流でちょっとした親切が差し出さるたび、こちらの心はひだまりで包まれるかのよう。多様な形状のバスを乗り継ぎ、スコットランドの大自然からイングランドの市街地を経て、気持ちの良い海風の注ぐ目的地まで。低予算の壁を知恵と工夫で乗り越え、イギリスでは極めて稀な”ロードムービー”を成立させているところに気概を感じた。
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