「ヒューマンドラマ、はたまた皮肉か」君を想い、バスに乗る ダンカイの娘さんの映画レビュー(感想・評価)
ヒューマンドラマ、はたまた皮肉か
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先立たれた妻との約束を果たすため、バスを乗り継ぎ目的地を目指す主人公。
過去に夫婦が通ったルートを辿り2人が過ごした日々を思い出しながら進んでいく。道中に出会う人々と助け合い、時には困難に陥りながら。いつのまにか彼は彼の知らぬところでSNS上の人気者となっていた。
この映画がどんな映画かと聞かれれば、私はこのよう答えるが。しかし決して、この映画は単なる心温まるストーリーとは素直に言えない。むしろ若干の怖さがある。
なぜ夫婦はイギリスの北端へ移り住んだのか、なぜ老体に鞭を打って目的地へ向かうのか。その答えが主人公トムの追憶から徐々に見えて来る。
思い出すのは、若かりし夫婦の幸せな日々だけではない。辛く悲しい過去。そう、これはとても強く、とても切迫した理由なのだ。
バスで出会う人々は、この老人がバスに乗る理由を知らない。一時のブームとなっただけで、一緒に写真を撮り、パーティに誘い、SNSにあげる。バス代をサービスする。
一方的な関心と優しさで出迎えた終着点で、最後に見物人たちが見たのは彼らが期待したものだったろうか。
知らぬ間に人気になった老人も老人を追いかける周囲も、お互いに置いて行かれてしまった。
所詮たまたま出会った関係。なぜ青年が兵隊になりたいのかも分からないままだ。急に始まり急に終わる。
残ったのは空虚のみ。
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