劇場公開日 2023年3月24日

「訪問介護という仕事」ロストケア mintelさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5訪問介護という仕事

2023年4月10日
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話としては、骨太で悪くないと思うのですが、訪問介護という仕事を実際経験したことがある身としては、冒頭から突っ込みどころが満載でした。

まず、訪問介護は基本ひとりでやります。3人もついていくなんて、入浴介助でもあり得ません。

訪問介護は昔から有資格者でなければできませんので、ユキちゃんは少なくとも知識をもった有資格者です。
1ヶ月ならともかく、3ヶ月も経つのに新人としてついていくのは、現在の介護士、特に訪問のヘルパー不足でどんどん訪問介護事務所がなくなっていってる昨今の状態ではありえないです。

他にも、清拭の際、バスタオルを掛けて、保温と羞恥心対策するというのはテキスト通りですが、寒い季節にお湯でからだ拭いて「気持ちいいねえ」はないです。
すぐ冷えるので、お湯で拭いたらすぐに乾いたタオルで拭き上げていきます。
風邪引かせるつもりか。

介護中に家族が来て当たり前のように家事をするのもアウトです。
家に介護可能な(要するに家事ができる)家族がいる場合、訪問の介護士はサービスしてはいけないので帰ります。
映画でああいうシーンが当たり前のように描かれると、現場のヘルパーさんや事務所が、誤解したご家族に「なんでできないの?」とクレームつけられそうで心配です。

こういう訪問介護現場の描き方を見ても、「ああ、この映画は、職業としての介護士が利用者を殺す話ではなくて、介護せざるをえなかった人がやむを得ず『家族』を殺す話なのだな」と思いました。
少なくとも制作サイドはそのつもりで作ったのではないかなと。

以前あった、息子が母を殺して心中しようとして死に切れなかった事件を思い出しました。

柄本明さん、すごい演技でした。本当に麻痺のある方のようでした。

繰り返される殺人と、繰り返されるリフレクションが、裁くものと裁かれるものを反射して、彼らが実は表裏一体であることを暗示しているようでした。

mintel