「ただただ極悪非道な独裁者がそこにいて、ヒーローが敢然と立ち向かう」RRR えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
ただただ極悪非道な独裁者がそこにいて、ヒーローが敢然と立ち向かう
舞台は1920年、英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた幼い少女を救うため、立ち上がるビーム(NTR Jr.)。大義のため英国政府の警察となるラーマ(ラーム・チャラン)。熱い思いを胸に秘めた男たちが”運命”に導かれて出会い、唯一無二の親友となる。しかし、ある事件をきっかけに、それぞれの”宿命”に切り裂かれる2人はやがて究極の選択を迫られることに(公式サイトより)。
ある作家が、冷戦終結後のハリウッド映画について、「旧来のアクション映画やスリラーの世界では、分かりやすくヒーローと悪役が登場しますが、現実の世界はもはやそうではありません。冷戦のような政治的闘争もなく、これが『敵』であるという印は明白ではなくなりました」として、単にミッションだけがある(≒敵か味方か、正義か悪かが分からない)スパイ映画(ミッション:インポッシブル」「ボーン・アイデンティティー」)や、悪役にもまた何かしらの事情を抱えている作品(バットマンシリーズ」等)をその証左として挙げている(丸山俊一ほか「世界サブカルチャー史 欲望の系譜 アメリカ70~90s 『超大国』の憂鬱」)。
ハリウッドに限らず、日本映画でも韓国映画でもこの傾向は見られ、そうした設定がただの勧善懲悪ではない物語を生み、作品に深みを与えてきた。そのうえで、RRRである。
RRRには悪者なりの一分の理は一切ない。ただただ極悪非道な独裁者がそこにいて、ヒーローが敢然と立ち向かう。とにかく異様に強いし、死なないし、怪我とか毒とかで瀕死だったヒーローは謎の薬草によって病で完全復活する。よく分からないハンドサインで全てを解し、森の中に奇跡的に置いてあった弓矢の矢は一向になくならないし、舞踏会はインドダンスで大盛り上がりである。たぶん歴史上の人物の微妙にチープなイラストがエンディングで突然大きく映し出されようが、作品の中間地点で「インターバル(休憩)」と出ようが、そんな些事はどうでもいいのである。勧善懲悪の世界線で、10分に1回来るアクションシーンをひたすら楽しめば良いのである。
映画は2時間に収めてナンボ、そこまでが監督の技量であると今でも思っているが、3時間を飽きさせない作品作りもまた、監督の技量なのだと新たな気づきもあった。