「これぞ映画体験」RRR 映画読みさんの映画レビュー(感想・評価)
これぞ映画体験
非常に面白かった。
映画館で、連続で2回観てしまった。
1920年、大英帝国の植民地となって残虐非道な圧政を敷かれているインド。
インド総督(英国人)の専横に対して、二人の男が立ち上がる。
一族の娘を総督夫人に奪われた森の戦士ビーム、
革命を成すために鋼の意志でインド警察に潜り込んだラーマ。
共通の敵を持ちながら、知らずの内に敵同士となった二人は知らずの内に友情を結び、その本心を知ることなく敵同士であることを知ってしまう。
彼らはインド総督を倒し、インドを解放できるのか。
と、ストーリーだけなぞれば相当硬派で、むしろ歴史大河の域。
エンディングで明らかだが、過去に非道を尽くした英国へのまっすぐな憎悪をぶつける、インド右翼的要素バリバリの映画。インドの多感な10代が観ればまっすぐそっちの道に進みそう。
しかし、プロットはシリアスなのだが、戦闘シーンや友情シーンの無茶苦茶ぶりでちゃんと笑って驚いて感じ入ってのエンターテイメントをしてくれる。それも、ギャグで濁すとかそういう腰の引けた内容ではない、低俗になる3歩手前だから清々しい。
例えば「ナートゥをご存じないか?」も、
①タンゴ、スイング、フラメンコをまるで自国文化のように主張する英国人ダンサー
②自文化であるスイングを盗用されて悔しがるが、何も言えない黒人演奏者
③(ここまで、帝国主義の文化的略奪の描写。大英博物館的な)
④「ナートゥをご存じないか?」
⑤ダンスバトル
⑥英国人とわかりあえる可能性、ラーマとビームの強さ、二人の友情結束
⑦暴力以外でビームの強さを描きジェニーの信頼を得る
⑧信頼を得たことでマッリとの邂逅へ
など、浅くない歴史的な背景と心情を描きながら、エンタメ映画として見せ場を作りつつ、物語展開を自然に進める見事なシークエンスがきまっている。
他の場面での、ビームとラーマの格が離れすぎないようにする微調整、厳しいシーンでも二人を嫌いにさせないための微調整、「殺されても・死んでも仕方が無い」と無意識に許可を作る敵側のヘイトコントロールも丁寧すぎるほど。
後半のあのシーンに繋げるため、最強の二人も足腰はビームの方が、腕力はラーマの方が強いという描写が前半から入っており、そこまで丁寧にされても(困惑)という感じ。
ゴードン族の面々が睡眠薬、毒、解毒薬、治療薬づくりに恐ろしく長けていることや、歌が上手いマッリの兄だからビームも歌が上手いとか、キャラクターシートの定義は執拗なほど。「インド人だからできる」ではないのだ。
演出も、インド映画ではお約束のダンスや歌がちゃんとストーリーの中で必然的なものとして取り込まれていて、志が高い。また、普通に考えると捕まる=負け、弱いなのだが、「捕まりながらも負けていない」と実感させる描写は、フィクション的であっても見事に演出で達成されている。
後半の脚本は若干ノリと勢いで進むし、目的もブレブレに感じるが、前半にさんざん『流転する数奇な運命』とそれっぽい歌で入れまくることで「流転する数奇な運命だからな……」と思えて許せてしまう。すごい力業だ。
たぶん、ビーム初登場となる虎捕獲のシーンは、本来もっと後のつもりで撮影したんじゃないかな。そう考えるとRRR(StoRy FiRe WateR)というタイトルも最後にうわー困ったでつけたんじゃないか。
「ビームは火山だ」
水じゃないのかよ!?
まあ流転する数奇な運命だしな……
あれだけ銃エピソードと共にあったラーマが矢キャラになっても……
まあ流転する数奇な運命って言われてたし……
しかしラーマもビームも、驚異的な跳躍で敵を打ちすぎでは……
総督のスーパーショットは一体何を観せ
~INTERRRVAL~
映画館で観てほしい作品。
どのシーンも「いきなり出てくる」方が楽しめるだろうから、公式HPも観てほしくない。
少し虐殺シーンや拷問シーンに本気度があるので、そういうのが苦手な人は観て後悔を感じる人もいると思う。このテーマを描く上では、必要なことではあると思うが。
そういうのが致命的でない人は、限りなく★5の映画なんじゃないかな。
歴史だのインドだの英国だの知らずとも2大バトルヒーローが侵略者の独裁を倒す話としても観られるし、歴史的・社会的意義に照らして世界感を楽しみたい人にとっても浅くはない。
いわゆる『君の名は。』のように観客のレベルごとに楽しみ方を用意できている深度別多軸の物語であり、3時間という長丁場もあっと言う間に終わる。
純粋な娯楽映画としても、業界人の道標・教材の一つとしても高い価値を放つ作品。
ほとんどの人にとって、観て損はないと思う。これは、映画という表現の特徴を最大限生かしたものとして、アニメや小説に代替物が無いからだ。
完成度はトップガンマーヴェリックの方が上に感じるが、どっちが好きかと言われたら私はこっちになりそう。2022年は豊作だ。生の喜びを感じる。