「SSS」RRR 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
SSS
インド映画のマイベストワン『バーフバリ』2部作のS・S・ラージャマウリ監督最新作。
本国インドを始め世界中で大ヒット。大絶賛。ハリウッドでは国際長編映画枠ではなく大量部門でのアカデミー賞ノミネートを目指すとか。
日本でもインド映画過去最大規模のスクリーン数。封切られたばかりだが、これぞインド映画!…との大評判。
こりゃもう、観るっきゃない!
当初10月は不作だなぁ…と思っていたが、ひょっとしたら今年の真打ち登場…!?
いや、本当に!
さすがはインド映画! さすがはラージャマウリ!
怒濤の超絶エンターテイメント!
使い古された“全編クライマックス!”って言葉だが、だって本当にそうなんだから仕方ない。
血湧き肉躍るドラマチックなストーリー、アメコミヒーローも真っ青の超人アクション、CGで効果を上げ、ユーモアやロマンスをまぶし、迫力の音楽や歌やダンスで彩り、熱い感動と興奮と満足を使命を果たすの如くお届け。
3時間中弛み一切ナシ。次から次へと展開していく面白さ、流転する数奇な物語に敬服。
やはりどうしても『バーフバリ』に愛着あるが、だからと言って決して本作は膝を屈していない。
更なる魅力を伴って。
偉大なるエンタメ神ラージャマウリは、また遥かに頂きに達した…!
完全なるフィクションと思いきや、インド独立運動の英雄と称えられる実在の人物二人がモデル。
史実では出会う事の無かった二人だそうだが、もし出会っていたら…?
ラージャマウリのこの大胆なアイデアが、自由に物語を創造する事が出来た。
イギリスの植民地だった時代のインド。
ある部族の幼い少女が英軍総督夫婦に連れ去られる。養子にではない。少女は歌を歌いながら手の甲にペイントするのが上手で、ただその“道具”として。
娘を返して下さいと必死に懇願する母親。兵が銃を構えるが、総督がそれを止める。ちょっといい人…? とんでもない!
銃弾一発にどれだけの価値があるか知ってるか?
つまり、インド人を殺すのに銃弾は無駄。銃弾一発以下の価値。木棒で殴り倒される。
この総督夫婦が鬼悪魔。インド人を見下す総督。後ほどだがあるシーンで血しぶきが見たいと言う狂人残酷な夫人。他英軍皆、人間じゃねぇ!(イギリス人が見たら不快かもしれないけど…)
そんな英軍にある報せが。部族の中で少女を取り戻そうとする動きが。
弓矢で英軍に歯向かうつもりか?…とせせら笑うが、笑ってられるのは一瞬だけ。
“羊飼い”と呼ばれるその追っ手は、連れ去られた羊を取り戻す為なら、どんなに山谷険しかろうと、雨風叩き降ろうと、猛獣が牙を剥こうと、決して諦めない。
その男の名は…、ビーム。
登場シーンはいきなり、狼からの虎との鬼ごっこバトル。捕獲し、後々思わぬ所で…!
不穏分子逮捕の為、英軍は適任者を選出。
抜擢されたのは、一人の英警察の男。
が、イギリス人ではない。インド人。
その男の名は…、ラーマ。
登場シーンはいきなり、ラーマ一人対大群衆アクション。怪我を負いながらも不屈の闘志でたった一人で鎮圧。
それにしても、何故インド人なのに同胞を制圧する側に…?
彼の瞳の奥とその先に見据えるある目的…。
共にある目的を持った二人の男。
片や幼い少女を取り戻す為に。
片や一見出世。ある理由の為に。
そんな二人が運命の出会いを果たさなければ、物語は始まらない。盛り上がらない。燃えない。
これまたスゲー人助けの場で出会い、意気投合。
親友のような兄弟のような。この二人の固い絆が育まれるのは、この世に産まれる前から決まっていたように。
しかし、お互いの素性は知らない。
追われる者と、追う者…。
二人の友情ややり取りがまるで中坊みたいなのが愉快。
ある優しき英国レディ“ワタシノナマエハマダムデハナクジェニーヨ”に心奪われ、ドキマギ奥手のビームに、ラーマが指南。車をパンクさせるのはちょっとあれだけど…。
お陰で親しくなったビーム。屋敷のパーティーに誘われるが、何とか聞き取れた英単語の中に、彼女の屋敷に目的の少女がいるという…!
屋敷に乗り込む大胆作戦を仲間と企てる。
一方のラーマは…
僅かな手掛かりを頼りに、ついに反乱分子の一人を捕まえる。
尋問するが、思わぬ反撃に遭い、毒蛇の毒で命の危機…。
ビームに助けられるが、意識朦朧の中、ビームから明かされる。
自分の本当の目的。
この時のラーマの衝撃は計り知れない。唯一無二だと思った友が、実は自分が追っていた首謀者だったとは…!
苦悩。葛藤。心の底から叫び声を上げて。
だが、ラーマにも絶対揺るぎない目的がある。
ここで見逃す訳にはいかない…。
二人の友情は本物。
共に笑い、喜び、過ごし…。
共に歌い踊り、傲慢英国紳士…いや、クズを見返した。
この友情が永遠に続けば良かった。
だが、観る側は奇妙な嗜好で、この二人の宿命や対立も見たいのだ。
遂に素性を晒して、顔を合わせた二人。
それは形容し難いほど、悲しく辛く、痛ましい事か。
己の目的の為に、ぶつかり合う。文字通り、拳と拳、身体と身体で。
何と痛ましいのに、何とエキサイティングでもある。
迫真の肉弾バトルに拳を握る。
一歩も譲らぬ闘いであったが、総督の銃口が少女を狙い…。
ビームは逮捕。獄中で処罰を待つ身に…。
その逮捕に貢献したラーマは出世。目的に近付いた。
ここで明かされるラーマの目的…。
故郷の村で、イギリスからのインド解放の為に闘う父。その下で民兵として鍛えられていた幼き頃のラーマ。射撃の腕を認められる。
そんなある日村を、英軍が奇襲。母が、まだ幼い弟が、殺される…。村人を逃がす為必死に抵抗していた父も負傷。
父と共に踏み留まり闘っていたラーマは、父とある約束を結ぶ。
村人全員に武器を渡す。
その日まで、闘い続ける。亡き家族、同胞、残していった許嫁の為にも、必ずやその約束を果たす。
ラーマには、絶対に諦める事の出来ぬ目的…いや、大義があったのだ。
その為にどんな犠牲を払おうとも。憎き英軍に頭を下げ、忠誠を誓うフリをしようとも、本心は違う。大義の為に…。
が、負い目はあった。親友を裏切り、英軍に渡した。
英軍と闘うと意味では同じ。だが…。
そんなラーマの心を決心させたのは、残忍な公開鞭打ちの場。
酷い事に、ビームへの鞭打ちを行うのはラーマ。
元親友の肉がちぎれ、血が飛ぶ。それを嬉々と見る鬼悪魔な総督夫婦。
だが、ビームは決して悲鳴や弱音を発しない。代わりにその口から発せられたのは…。
自らの精神とインド人の誇りを震わせる歌。
その歌声が、インド人を蜂起させる。
その様を見て、ラーマは知る。
民を震い立たせるものこそ、本当の武器。
ビームは自分の大義の為に死なせてはならない男。
もう迷いは無い。
ビームの処刑の日が決まる。
総督の信頼を得つつ、反乱を企てる。
が、それに寸での所で気付く総督。
この身がどうなろうともビームと少女を逃がそうとするラーマ。
ビームは解放されたが、ラーマの真意には気付かず…。
ビームと少女は逃走に成功。
ラーマはその姿を見届けて、反逆者として囚われの身に…。
ラーマの大義も目前で尽きるのか…?
隠れ潜みながら英軍から逃げるビーム。ある時、一人の人物に助けられる。
何の因果か、その人物は…。
その人物から、親友を裏切ってしまった葛藤と、大義と、その大義を果たせぬ覚悟で親友を助けようと命を懸けた事を知らされる。
それを知って、ビームは…。
…と、ここまで長々と書いて、中盤過ぎてクライマックス直前。
どれだけのドラマと運命を交錯させて魅せてくれるんだ、この作品は…!?
本当に話を飽きさせない。毎度毎度クライマックス!…な展開で、たまげる。
序盤で捕獲した虎、総督の銃弾一発の価値の話、スパイス的な伏線の使い方にもニヤリ。
その虎やその他猛獣を使ったびっくり仰天の突入、超人パワー炸裂のバトル…ラージャマウリのアクション演出に限界は無いのか。
度肝を抜かれる展開やアクションの連続に、ハリウッドやMCU監督たちも絶賛・興奮・完敗。
ラージャマウリがハリウッドデビューしてMCU作品を手掛けたらスゲー事になりそうだが、ラージャマウリにはオリジナリティー溢れるスーパーアクションを撮り続けて欲しい。
音楽や歌踊りは聞くを通り越して、体感レベル。劇中の楽曲の数々。ビームとラーマの友情の歌、EDの歌もいいが、やはり話題の『ナートゥ』。キレッキレでパワフルなダンスは、コケにした英国クズ紳士をぎゃふんと言わせ、人種を超えて皆を踊らせる躍動感がある。
これからの宴会シーズン、余興で披露したら盛り上がる事間違いナシだが、激ムズダンスを覚えるのと踊り終わった後の体力消耗が大変そう…。
そして勿論、本作の闘志と言っていい主演二人、N・T・ラーマ・ラオ・Jr.とラーム・チャランの大闘演。
男なら黙ってこの二人の漢に惚れろ!
惜しむらくは、助演に魅力的なキャラが居なかった事。『バーフバリ』のカッタッパやシヴァガミのような味あるキャラが欲しかった。
ツッコミ所やご都合主義、強引な点も多々。少女を救う為猛獣使って突入したビームがラーマと対峙した時、「俺が何をした!?」と言うけど、いや、とんでもねー事してます…。
そういった所も醍醐味。ありえねー!おいおい!…って言いたくなるくらいが、インド超絶エンタメ。
全編クライマックスに於いての本作の真のクライマックスは、やはりこれを待っていた!
友情、対立。そして再び…。
分かっていても、激アツ!大興奮!
私の中の、観た人全ての、闘志と野性が咆哮する!
タイトルの『RRR』とは、“Rise=蜂起”“Roar=咆哮”“Revolt=反乱”の頭文字を合わせたもの。
これに掛けるならば、“SSS”!
最高!最強!最超!
インド映画の照準はもう国内だけのものではない。
装填。狙え。撃て。
その弾は世界へ放たれ、見る人の心を貫いた。