「人間の苦しみと立直る力を見つめる監督の 魂のファインダーは変わらず」東京2020オリンピック SIDE:B きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の苦しみと立直る力を見つめる監督の 魂のファインダーは変わらず
「朝が来る」「あん」の河瀨直美監督作品だ。
SIDE:Aに続けて鑑賞。
もちろん五輪映画をではなく河瀨直美を見るためにである。
シネコンでお客は僕を含めて2名。
もっと阿鼻叫喚な後編になるのかと思いきや、意外や意外。落ち着いた作りに収まったようだ。
子どもたちの表情や、美しい自然、林や桜や雨の光景を折り込みながら、過日を回想させるこの後編からは、何かを、あるいは誰かを糾弾するための告発映画としてではなくて
大変だったあの2年間を経験したすべての日本国民への、“労りの後奏曲=ポストリュード”のようなものを、僕は感じた。
酷暑とコロナ禍。
このどう足掻いても逃げられない自然の猛威があったのだ。
人類が、そして日本人が、どれだけあの日々を苦しんだかを河瀨直美が記録した、・・だからこのような優しい映画になったのだろう。
僕は、支離滅裂なオリンピックの運営を撮りたいのなら、撮り手は支離滅裂であってはならないはずだと身構えて開演に臨んだのだが、そこに映し出されていたのは喧嘩腰とは真逆の、大人な慰めとダウンタイムの空気だったと思う。
前編と同様にアスリートたちのシーンは添えもの程度に散見されるだけだったから、「オリ・パラ公式記録映画」としてはまったくの不出来であって、
かつての東京五輪の記録やベルリン五輪の映画のような肉体の美しさに特化もしていない。
説明もあまりに少ない。
短いカットそれぞれの、中身の重さにも応えていない。
だから後代まで残るオリンピックの記録映画にはならないように思う。
でも閉幕後1年を経た人間が今このときに観るための限定的ドラマになっていたように思う。
トーマス・バッハの人となりを知る機会になったし、老人森喜朗への温かい監督の眼差しも覗き見た。
たくさんの裏方さんの努力もこうして思い出すことが出来た。
だから1年後限定の僕らへの温かい便りだと感じた。
一番心に残ったのは
南スーダン (?)の選手の言葉、
「日本を応援するために私は日本へ行きます」と。
頭をガーンと殴られた気がした。
そんな人がこの世にはまだいてくれたのだ。
東日本大震災を悼み、日本のために自分は頑張りたいと言っていた彼女の声に、
ここのところとうに忘れていた無垢な心に触れて 鼻の奥が熱くなった。
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付記:
監督のスキャンダルが報じられているようだが、オーバーワークでburn-outして精神を病んでいるということはないだろうか?
なにか個人的な理由で秘匿を貫くという訳でないなら、体調の不調があるならば何らかのステートメントをマネージャーなりが発してくれたら良いと思う。