劇場公開日 2022年10月21日

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「観終わった後、水墨画展を見に行きたいとも水墨画をやってみようかなとも思わせないのが致命的。出演陣は悪くないのに脚本・演出が上っ面だけ撫でているだけだから。」線は、僕を描く もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0観終わった後、水墨画展を見に行きたいとも水墨画をやってみようかなとも思わせないのが致命的。出演陣は悪くないのに脚本・演出が上っ面だけ撫でているだけだから。

2022年10月23日
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鑑賞方法:映画館

①出だしは良かった。椿の水墨画の前で何故か涙ぐんでいる横浜流星。賓客用のステーキ弁当を食べなさいと言いステーキまで分けてくれた優しそうなオジさんが水墨画の大家で、衆人の前で見事な水墨画を描くところは感動的ですらあった。
②ところが、このシーンがクライマックスであったと思えるくらいあとは最後まで胸に響かない。三浦友和扮する水墨画の大家も、富田靖子演じる水墨画の批評家も如何にも芸術家らしい深い台詞を言うのだが心に刺さってこない。演技が悪いのではなく脚本も演出も上辺だけなぞっているからだ。そういう時代だからか、原作がそうなのか分からないけれども、全体的に大変ライト、軽い。
③湖山がいつまでたっても現れず、中止にしようとしたときに、湖山の使用人と思っていた西山が実は水墨画の達人で見事な水墨画を描いて皆をあっと言わす一幕もサスペンスの盛り上げ方が巧くなくカタルシスが味わえない。
④横浜流星も悪くはないのだが霜介が水墨画に魅せられのめり込んで行く過程にもう一つ説得力がない。古前が霜介を励ますシーンも伏線が無いので唐突で取って付けたような感じ。
⑤ご贔屓の清原果耶も若くして将来を宿望された画師の凛とした姿の造形は流石だが、祖父であり師匠である湖山に対する複雑な心境がよく解らず西山の台詞で説明されるだけ。これは小説的手法であって映画的手法ではない。
⑥霜介の心の傷の原因がわかってから二人が画いて画いて画き続ける映像が続くが、その後は千瑛が大賞を取り霜介が新人賞を取った結果が示されるだけなのでカタルシスがなくそのままラストになるので物足りない。
⑦何より、線を画き続ける描写は有っても、初めて線を描けた時の感動や自分の線を描けた時の達成感が描かれていないのがイタい。全く違うタイプの映画ではあるが、『Arrival』でヘプタポッドが初めて彼らの文字を描いた(あれも墨絵みたいでしたね)時のような驚き・感動が有ったらなぁと思う。
また、どんな線かは、これまた湖山や千瑛、翆山の台詞で説明されるだけで、もっと映像的に表現して欲しかった。
⑧結局、三浦友和(ジジ臭くないのは流石かっての青春スター)のTVデビュー作(映画デビューの前)から見、富田靖子(貫禄ついたね)もデビュー時代から知っているオールドファンには、映画自体よりも時の流れの方が心に染みた。

もーさん