「池波ノワールを堪能できる美しく残酷な仕掛人の世界」仕掛人・藤枝梅安2 ターコイズさんの映画レビュー(感想・評価)
池波ノワールを堪能できる美しく残酷な仕掛人の世界
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時代物は一種のファンタジーだと思ってるのだけど、その期待を裏切らない見事な世界観で一気に引き込まれる。雨の街道、夜の宿場町、灯りに照らされる街、これらの視覚的な美しさや風情に魅了される。
フィルムノワール、ネオノワール、香港ノワール。この作品はその系譜の江戸ノワール、いや池波ノワールか。闇と灯り、善と悪のバランスがこの作品を特別なものにしていると思う。
梅安も彦次郎もだが、凶暴な浪人の伊坂惣市、梅安を狙う井上半十郎 も、彼らは死に場所を探している男たちなのだと思う。伊坂惣市はただ凶暴なだけではなくいつも少し困り顔で、なぜ俺は今こんな場所にいるのだろうという戸惑いと怒りと諦観を秘めているようで、この記号化されてない人物造形が作品に深みを与えていると思う。井上半十郎も初登場シーンで一度見過ごす。そこからの展開が、彼の躊躇と葛藤を感じることができる。背景にまで思いを馳せたくなるキャラクターと、一つの仕掛けにもう一つの仕掛人が介入してくる展開のもたらすハラハラ感、そしてしがない鍼師と楊枝職人のバディがどう剣客と戦うかという展開の妙も見どころだと思う。
もともと時代劇も時代小説も偏愛しているのだけど、スクリーンでこれほど美しい世界を見せてもらえるとは。梅安の豊川悦司さんの持つ強さと弱さ、色っぽさが魅力的だし、彦次郎との会話の中にある男同士の思いやりや信頼関係もいい。原作の持つ、複雑なキャラクター造形をいかしきった見事な映像化では。堪能しました。
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