セイント・フランシス

劇場公開日:

セイント・フランシス

解説

30代女性と6歳の少女のひと夏の交流を描き、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭2019で観客賞と審査員特別賞を受賞したヒューマンドラマ。

大学を中退し、レストランの給仕として働きながら夏の子守りの短期仕事を必死に探す34歳の独身女性ブリジット。子守りを任された6歳の少女フランシスやその両親であるレズビアンカップルとの出会いを通し、彼女の冴えない人生に少しずつ変化が訪れる。

主演を務めるケリー・オサリバンが自伝的要素を盛り込んでオリジナル脚本を手がけ、これまでタブーとされることの多かった、生理、避妊、中絶など女性の心身にまつわる本音を、ユーモアを交えながら軽やかに描き出す。オサリバンの私生活のパートナーでもあるアレックス・トンプソンが長編初メガホンをとった。

2019年製作/101分/G/アメリカ
原題:Saint Frances
配給:ハーク
劇場公開日:2022年8月19日

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映画レビュー

5.0『セイント・フランシス』以降という言葉が生まれそうなくらいの先進性

2022年9月30日
PCから投稿

さえない人生を送る主人公の等身大の姿を描いた映画は山ほど存在するが、それでも映画とはこういうものである、というバイアスがかかっていて、不可避的に映画的脚色がなされるもの。映るものより、むしろ映されない要素によって、これは作り事である、という安心感が生まれているものだと思う。しかし本作は、商業映画があまり注目してこなかった日常のひとコマを描くことに時間を割いていて、それがジェンダーなどの問題意識をさりげなく提起するという点で、映画表現として革新的な試みに挑み、そして成功していると思う。

それが等身大のヒューマンコメディであることであまり前景化はしないのだが、今後の映画表現において『セイント・フランシス』以降という認識が生まれるのではないかと思うくらい、大きな変革を成し遂げているのではないか。作り手にとってインスピレーションになったというグレタ・ガーウィグも素晴らしい映画作家だが、フォロワーでありながら、さらなる先の地平を切り拓いた本作には拍手せずにいられない。

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村山章

4.0さりげなく込められた宗教的側面についての覚え書き

2022年8月23日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

楽しい

知的

この映画については当サイトの新作評論の枠に寄稿し、その中で「題名を含め、宗教的な要素は本作の要所要所で認められるものの、さらりとフラットに扱われている」と書いた。実は鑑賞してから執筆前の下調べの段階で、初見では気づかなかった宗教的な要素を知り興味深く思ったのだが、残念ながら評論枠の字数の都合で詳しく言及できなかった。そこで、このレビュー枠ではそうした宗教的要素について補足してみたい。

前置きをもう一点。このレビューにストーリーに関するネタバレはないが、作り手(脚本と主演のケリー・オサリバン)が役名などに込めたであろう意図について触れるので、鑑賞前に読むと予備知識がある種の先入観になり、まっさらな状態で映画に向き合うことの妨げになる可能性はある。そんなわけで、鑑賞後に読んでもらえるとよりありがたいかなと思う。

では、ようやくここから本題。まず、自身の体験を映画中のエピソードに反映させたオサリバンは、アイルランド系カトリック信者の移民家系に生まれ、8年生(14歳頃)まで「無原罪の御宿り」という教義に基づく学校に通っていた(ブリジットも幼稚園から8年生までカトリック校に通ったと話す)。“御宿り”とは聖母マリアがイエスを身籠ったこと。妊娠、出産という要素は本作とつながりがある。なお、ブリジットがマヤたちの家の廊下で目にするのは、「絶えざる御助けの聖母」という宗教画。

日本の人名や行事などに漢字文化と仏教的価値観が浸透しているように、欧米にもラテン語・ケルト語などを含む印欧語族の文化とキリスト教的価値観が根付いている。映画の主要人物2人、フランシスとブリジットの名前についても、調べるといくつかわかることがあった。

まずフランシス(Frances)は、男子名Francisとともに、古くは「自由な人(free man)」を意味する名前。また、「アッシジの聖フランチェスコ」(英語表記はSaint Francis of Assisi)という12~13世紀の有名な聖人がいて、その思想のひとつに、人類すべてと森羅万象が天の父とマリアを母とする兄弟姉妹だとする「万物兄弟」があるという。映画のフランシスの家族も、男性の父親と女性の母親という伝統的な家族の形式にしばられず、現代の多様性尊重に通じる“自由な”家族の形を体現している点も、「フランシス」の含意と通じるように思われる。

もう一方のブリジット(Bridget)は、ケルト語派で「力、強さ」を意味する言葉に由来する女子名で、アイルランド系に多い名前だそう。やはり同じ名を持つ有名な聖人として、5世紀頃にアイルランドで慈善活動を行った修道女「キルデアの聖ブリギッド」がおり、別名は「ゲール人のマリア」(ゲール人は今のアイルランド人やスコットランド人の祖先にあたる)。聖ブリギッドは乳児や私生児の守護聖人として崇敬されているという。父親がいない6歳のフランシスの子守りをし、またマヤが産んだ乳児のウォーレスもあやす主人公に、オサリバンがブリジットという役名をつけたのは偶然ではないだろう。さらに、ウォーレスの洗礼式後に教会の庭で参加者らが会食する終盤のシーンには、マリア像に見守られる位置でブリジットが赤ワインを飲んでいるごく短いショットも挿入されている。

以上、散発的ではあるが、本作の宗教的側面について理解の助けになるかもしれない情報を書き出してみた。キリスト教に詳しい研究者や宗教家なら気づくであろう、象徴的な要素や示唆的なエピソードが作中にまだまだあるだろうし、誰かが書いていたらぜひ読んでみたい。

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高森 郁哉

4.0穏やかかつ眩い映像を貫く、率直さと正直さ

2022年8月22日
PCから投稿

30代の女性を主軸に描く成長物語。と書くと、同類の多くの映画群の中で埋もれてしまいそうだが、いざ本作を紐解くや、作品内を貫く率直さと正直さに驚かされる。映像は透明感に満ち、語り口もとても穏やかなれど、主人公が直面する悩みや葛藤はその後の生き方を変えるくらい重要なものだ。その中心に位置する者こそ主人公ブリジットと、彼女が子守する6歳の少女フランシス。この幼子、最初は意固地で心を開かないところがあるものの、やがて母子や友人とも違う独特の、唯一無二の信頼と愛情で結ばれていく。その存在からブリジットが学ぶことは大きく、自然体の交流を重ねる二人はいつだって眩い光に包まれているかのよう。また、フランシスを育てるレズビアンカップルが吐露する胸中、産後うつと周囲の理解、友人との再会で直面する格差意識に至るまで、我々がつい見ぬふりする気づきや感情を随所に散りばめ巧みに織りなす。そんな確かな手腕の光る一作だ。

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牛津厚信

3.5A Timely Drama on Pregnancy

2022年7月19日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

Saint Frances is the kind of "only in America" drama that shows the new spirit of the age. Who could imagine a pro-life Catholic family with two lesbian moms. With the Roe v. Wade ruling in the news last week, actress and writer Kelly O'Sullivan's personal story on going through an abortion resonates with the time, though obviously with a liberal skew. Oddly parallel to Weinstein's St. Vincent.

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Dan Knighton
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