「自分を映画にごろりと差し出すシャンタル・アケルマンの確信。」私、あなた、彼、彼女 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
自分を映画にごろりと差し出すシャンタル・アケルマンの確信。
クリックして本文を読む
まだ20代そこそこだったシャンタル・アケルマンが自分主演で撮った本作は、ヌーヴェル・ヴァーグ的でもあるし、またアメリカン・ニューシネマ的でもある。前半はとにかく家から一歩も出ずに過ごそうとする若い女の姿を記録映像のように撮っていて、後半は一転ロードムービー的な展開になるのだが、倫理のゆらぎも娯楽映画的なダイナミズムも排除して、本当に画面の中には誰かが「いる」しか言いようのない時間が続く。しかし意味性や理想化から解き放たれた主人公の姿は社会の規範からも自由に見えて、フェミニズム的な意味でも非常に批評性を獲得した作品になっている。そして湧いてくるいろんな理屈を押し流すかのように、終盤のラブシーンがシンプルな肉と肉との貪り合いとして差し出される。その居直りは暴力的でもあり、また作り手の確信でもあるのだろう。おそるべき才能だし、この数年後にはあの『ジャンヌ・ディエルマン』を撮れてしまう飛躍にも驚くばかりである。
コメントする