「全編が冗談のようなバカバカしさに包まれつつも、唯一シリアスな役柄の真田広之が、抜刀術を繰り出し、凄みを見せてくれました。」ブレット・トレイン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
全編が冗談のようなバカバカしさに包まれつつも、唯一シリアスな役柄の真田広之が、抜刀術を繰り出し、凄みを見せてくれました。
ブラッド・ピット主演のアクション大作。日本が舞台とあってか、最近では珍しく、派手な宣伝活動を行い、盛んにテレビCMを流している。中身はどうか。2時間6分、飽きることがない。こちらこそ、愉快な作品を「どうもアリガトウ」です。
いつも厄介な事件に巻き込まれる不運な殺し屋レディバグ(てんとう虫、ブラッド・ピット)が、東京発の超高速列車に乗り込むます。久しぶりの任務は、列車に乗ってブリーフケースを盗んで次の品川で降りるだけのという簡単な仕事のはずでした。しかし、次から次に乗り込んでくる殺し屋に命を狙われ、降りたくても降りられません。結局10人の殺し屋が乗り合わせることになった弾丸列車は、不吉なことが待っている京都に向かって爆走するのでした。
「日本を舞台に殺し屋たちが活躍するハリウッド映画」と聞けば、誰もがキワモノを思い浮かべるのではないでしょうか。そんな穿った予想のままに冒頭から日本のようで日本ではないシーンが連続します。昔のハリウッド映画が描いた 「間違った日本」が無邪気に再生産されるのです。
ネオン、フジヤマ、サムライ、ヤクザー。日本のイメージはいまだにそれか、と思わなくもありませんが、目くじらを立てず、笑い飛ばすのが正解。
だから時速350キロメートルの超高速列車が、なかなか京都に着かなくて、翌朝に到着してしまうことや、殺し屋が新幹線の先頭車両に飛び移り、運転席の窓をたたき壊して侵入しても、何の不思議もないのです。「ヒーロー」を始め、ここぞという時に流れる日本の歌の選曲も間違っていません。
原作は伊坂幸太郎の小説 「マリアビートル」で、物語の舞台を盛岡行きの東北新幹線から、京都行きの超高速列車に置き換えました。密室、かつ終点があることが生むスリルとサスペンス。列車を舞台にした映画には名作が多いが、京都行き殺し屋超特急の本作はコメディーの要素が加わわります。
監督は、ふざけたヒーロー映画「デッドプール2」のデヴィッドーリーチです。彼はスタントマン出身で、過去にブラッド・ピットの代役を何度も務めたことがあります。今回の“走り続ける密室”と言うべき高速列車の、閉鎖的な空間の窮屈さを逆手に取った、密度の高いアクション設計は本当に見事。目の前にある日用品や小物を、次々と格闘の道具に活用していくアイデアは、ジャッキー・チェンの映画術を連想させました。
舞台は東海道新幹線ですが、車内シーンはハリウッドのスタジオで撮られ、破壊的なバイオレンス、カラフルな装飾が満載でやりたい放題。日本のアニメや漫画のテイストを取り込みつつ、独自の様式美を追求した映像世界は、殺し屋たちの因縁話も盛り込まれ、あらゆる場面でハプニングが起こるのです。
難しいことを語りたがる剣の達人エルダー(真田広之)、義理人情に厚い殺し屋コンビのタンジェリン(みかん)&レモン(アーロン・テイラージョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー)ら脇のキャラクターがみんな、癖は強いが魅力的。しかし、ブラビが演じるレディバグにはかないません。
有能な殺し屋というよりは傷だらけのヒーローで、敵にも味方にも優しく、ピンチでも軽口をたたく余裕があったのです。最近、格闘部分のリアルさを追求するアクション映画が増えているが、本作はどこかコミカルで、ピットの魅力を存分に引き出しています。 殺し屋同士のドラマあり、駆け引きあり。突っ込みどころも満載だから、見た人とあれこれ語りたくなるはずです。
全編が冗談のようなバカバカしさに包まれつつも、唯一シリアスな役柄の真田広之が、抜刀術を繰り出し、凄みを見せてくれました。