劇場公開日 2022年9月1日

「伊坂ファンとしての嬉しさに、若干の違和感も」ブレット・トレイン 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5伊坂ファンとしての嬉しさに、若干の違和感も

2022年9月5日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

楽しい

興奮

ちょっと変わっていて自虐気味だったりもするけれど魅力的なキャラクターたち、意表を突く展開、さりげなく巧妙にしのばせた伏線とその鮮やかな回収、そして一貫したユーモアとヒューマニズムが特徴的な傑作小説群を発表してきた作家・伊坂幸太郎。その愛読者はもちろん、古くは「アヒルと鴨のコインロッカー」から最近の「アイネクライネナハトムジーク」まで多数の映画化やドラマ化を通じても、日本のエンタメ好きの幅広い層に浸透し、支持されてきた。そんな伊坂ファンにとって、初のハリウッド映画化、しかもブラッド・ピット主演とくれば、嬉しいのは当たり前だし、期待しないわけにはいかない。

原作の「マリアビートル」は、「グラスホッパー」(こちらも2015年に映画化された)の続編にあたる。各人が独特の殺人テクニックを持つ殺し屋たちが入り乱れてバトルを繰り広げるのが共通した世界観だ。特に「マリアビートル」は、約2時間の新幹線の車中でほぼすべての出来事が展開するという点で、もともと映像化に向くストーリーではあった。

そしてデヴィッド・リーチ監督(現在46歳)と言えば、スタントマン、スタントコーディネーターの経験を活かし、「アトミック・ブロンド」(2017)のリアル志向で工夫を凝らした格闘アクション、「デッドプール2」(2018)の活劇とVFXの巧みな融合(とブラックユーモア)などで高評価され、勢いに乗っているクリエイターという印象。そんなリーチ監督が、原作をしっかりリスペクトしつつも、高速走行するブレット・トレイン(弾丸列車)の車内という閉空間で繰り広げられ、食堂車内やトイレなどにあるさまざまな備品も使ったアイデアいっぱいのスピーディーな格闘シーンで楽しませてくれる。アーロン・テイラー=ジョンソン、マイケル・シャノン、ジョーイ・キング、真田広之といった共演陣もなかなかに豪華だ。

だけど何だろう、メリハリの利いたド派手なアクションとキャラクターたち、それに作り物感を敢えて狙った“エキゾチック・ジャパン”の描写は、確かにハリウッド娯楽作らしくて世界市場を意識したことも伝わってくるのだが、伊坂小説のファンとして「あれ、なんか違うんだよなあ…」という微妙な違和感も覚えながらの鑑賞だったことを告白したい。ふふっと微笑んでしまう穏やかなユーモアや、そっと心に響く繊細な感性が、爆笑のジョークと明快な激情に変換されてしまったことで感じるさびしさ、とでも言おうか。

もちろん、日本の原作が海外で映画化されたなかでは大成功の部類に入るのは間違いない。高望みしすぎか、ないものねだりかもという自覚もある。聞くところによると、伊坂作品はまだ英訳で出版されていないとか。本作の世界的ヒットを機に外国語での翻訳出版が増え、伊坂小説の奥深い魅力を映像化する国内外の企画がさらに続けばいいなと願っている。

高森 郁哉
アサシン5さんのコメント
2022年9月26日

初めてプロの方にコメント緊張です。伊坂幸太郎は全読破してますが、、もちろん映画は全て観てますが、映画化最高作だと断言できます。ちなみに、原作者本人もそう言っていたそうです。

アサシン5