劇場公開日 2022年8月11日

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「ぬるま湯な現状追認」野球部に花束を 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ぬるま湯な現状追認

2025年7月29日
iPhoneアプリから投稿

5月に体罰報道が出た済美高校の甲子園出場が決まり、2025年の甲子園出場校があらかた出揃った。PL学園や青森山田高校の部内いじめによる致死事件を経てもなお野球部というコミュニティの軍国主義的体制にさしたる変化はみられず、彼らの悪辣ぶりは「感動」「青春」といった歯切れのよい言葉によってうまいこと韜晦されている。

そんな野球部の内情を、「野球部あるある」を大義名分にまざまざと提示するという本作の試みは、ある意味で高校野球界の体制変革を促す内部告発だといえる。

しかし蓋を開けてみれば本当に「野球部あるある」をやっているだけではないか。しかも監督や先輩の暴力や暴言といった不条理も随所で角を削られ、パワハラ・モラハラ描写としての迫真性を失っている。これでは何の告発にもならない。

告発ではないとすれば本作の存在する意義とは何なのか。単に元・野球部の観客の記憶を心地よく撫でることだけが目的であるならば、わざわざこんな映画を観ずとも高校時代の旧友と卓を囲めばいい。

あるいは「野球部の本質はパワハラとモラハラである」と恐れ多くも開き直る魂胆なのか。であるならばもう少し徹底的にやらなければいけない。沖縄水産高校・栽監督を主人公に据えた伝記映画『沖縄を変えた男』のように、監督から生徒へパワハラとモラハラが振るわれるさまをひたすら淡々と描き続けるくらいのことはしなければ意味がない。

全体を通じて何がしたいのか曖昧な映画だった。

因果