「『ドライブ・マイ・カー』と共通しているところもある」LOVE LIFE てつさんの映画レビュー(感想・評価)
『ドライブ・マイ・カー』と共通しているところもある
昨年9月のベネチア国際映画祭でノミネートされ、NHKニュースや『ハートネットTV』"#ろうなん"という番組での取り上げられ方は、当事者俳優が演じたことを強調していた。本作を観てみると、その俳優は主役ではなく、途中から出演し、主役たちの生活に波風を起こす役割を果たしていた。主演の二人は、役所の福祉課と別棟の社協のようなホームレス支援事業を担当している部署に勤務していた。エンドクレジットによると、抱樸の協力を受けているという。妻は連れ子と夫にきかれたくない内緒話を手話で行っていた。妻は夫の両親から認められておらず、息子の事故死にも感情的に拒否を受ける面があった。警察でも虐待死を疑われる面があった。妻の元夫が突然現れたが、韓国手話を使うため、コミュニケーションを取れる者が妻しかおらず、現夫も理解を示す。そのうち妻は現夫に内緒で元夫を守らなければならないと思い込むようになってしまい、韓国に帰ると言い出した元夫についていく。現夫は元夫に背を向けたまま、妻が元夫のことを心配して探し回る活動をしてきたかを説明するが、元夫にはきこえていないというコミュニケーション断絶が表現されていた。釜山行きフェリーが発着する町という設定なのだろうか。しかし、韓国に行ってみると、元夫には家族がいて、妻が付き添う必要性はなかった。韓国手話が多様なコミュニケーションの一つとして使われ、登場人物が韓国に行ってしまうという展開は、確かに『ドライブ・マイ・カー』と共通していると思った。事後に監督の深田晃司氏とアナウンサーの笠井信輔氏のトークがあり、出発点は、深田氏が20代のときに矢野顕子氏作の同名の歌を知ったときに構想をもちながら、中途で保留しておき、近年『淵に立つ』を制作したことから本作脚本の展開を考え、主演二人をオファーしてから、二人と違う言語を使う人物としてろう者に行き当たり、障がい者が出演することの必然性や当事者の考え方を取材してつくりあげていったという。笠井氏は、木村氏の気の強さの表れる場面を評価し、本人に取材して、出産後、映画での子を失うショックよりも、生まれてきた子を大事にしたいという、まさに歌詞の表すような心情を書いてくれたことを報告していた。