「ひとりで立つ。」LOVE LIFE 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
ひとりで立つ。
2022年。深田晃司監督。役所勤めの夫と、息子連れで再婚した妻。夫は結婚寸前までいった同僚の女性と二股の末に今の妻と結婚していて、妻は突然蒸発した元夫を探す過程で今の夫と出会っていた。夫の両親はこの結婚に完全には納得していない。そんななか、家族一同が集まる機会から物語が始まる。結婚しているから愛している(愛すべき)とか、別れても思いが残るのは未練だとか、境界線を前提にした心の揺れをあれこれを描くのではなく、人と人の間に生まれる思いの濃淡を静かに描く。
誰もが一筋縄ではいかない想いを静かに抱えていて、夫婦も親子も確固とした支えにはなってくれないなか、それでもなんとかお互いを思いながら生きようとする人々の姿を描く。聾唖だったり外国籍だったりするから多様性が描かれるのではなく、ただ単純にみんな多様であることが「ほいっ」という手軽さで提示されている。誰もが、圧倒的に、ひとりであるのに(この監督の特徴)、この多様さのせいで、どこまでもすがすがしい。終わり方がハッピーかどうかとは全く関係なくハッピーな気分になる。
長回しが多用されるなかでそれぞれの人物がひとりでカメラに収まるときのたたずまいがいい。
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