「悩み多き若者へ」かがみの孤城 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
悩み多き若者へ
2018年には本屋大賞も受賞し、発刊以来ベストセラーとして、現在も尚、揺るぎない人気を博している、辻村深月の長編ファンタジー小説のアニメ映画化。中・高校生の課題図書のようなストーリー展開だが、辻村氏独特のファンタジーな世界観と共に、思春期の少年少女の揺れ動く心の様を、原恵一監督が、心に熱いモノが込み上げてくるような感動的な展開で描いている。
主人公は、中学入学早々にいじめのターゲットとされ登校拒否に陥った安西こころ。友達や先生とも距離を置き、部屋に籠もる生活。そんなある日、こころの部屋の鏡が眩く光を放ち出す。そっと触れてみると、吸い込まれるように鏡の世界に・・・。その先には広い海の真ん中に佇む古い城が目の前に現れ、それと同時に、こころを含めて同じような境遇の7人の中学生が集められていた。
そこに現れたのが、真っ赤なドレスを着ているが、顔には狼の面をかぶった不思議な少女。城の案内人ごとく、7人にその城でのルールや集められた目的を話し出す。そして、この城の中にある秘密の扉の鍵を3月30日までに探せば、願い事を叶えるというもの。何故、この7人が城に集められたのか? また、狼少女の真の目的は何? 様々な謎が謎を呼びながら、7人の友情や心の成長が試されていく。
アニメは基本的にはあまり観ないが、本作は、原作にも感動し、映画化もされるのじゃないかと期待していたので、公開を楽しみにしていた作品。その期待に十分応えてくれており、謎がすべて明かされ、全てが繋がるラスト・シーンでは、原作以上の感動的な演出や展開に、女子中高生の観客が多かった中で、オジサンとしては、しゃくりあげる涙を抑えるのが大変だった(笑)
新海作品の様な、映像美の素晴らしさもない。『鬼滅の刃』のような派手なアクションも無い。『スラム・ダンク』のような、感動的なスポーツシーンも無い。どこにでもいる普通の少年少女が不登校になったシチュエーションではあるけれど、一人一人の心の襞に寄り添い、内に秘めた心の叫びを訴えてくるところに、誰もが共感できるこの作品の素晴らしさがあると思う。
主人公のこころ役に抜擢された富真あみは、声優初挑戦ながら、心を閉ざし、揺れ動くこころのか細さを上手に演じていた。その他にも、北村匠海、高山みなみ、梶裕貴、麻生久美子、宮崎あおい、そして、謎の城の狼少女には芦田愛菜と、実力のある声優、俳優陣が脇を固め、バックアップしている。
思春期の中で、様々な壁や人間関係に悩み、苦しんでいる若者に、新たな一歩を踏み出す為の勇気を与えてくれる作品になればいいなと思う。