「予算とキャストの無駄遣い」リボルバー・リリー 底冷え冬太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
予算とキャストの無駄遣い
機関に育てられた特殊戦闘能力を持つ今は引退した凄腕の女スパイが、とある事件をきっかけに知り合った少年と共に、旧日本陸軍に追われながら徐々に自身の惜別したはずの過去と向き合っていくことになる。
……という内容。
本来90〜100分くらいで撮れるものをうすーく引き伸ばしてる感が否めない。
よく揶揄される邦画の悪いところがほとんど出ているように思う。
山本五十六役の阿部サダヲさんの声の出し方と長谷川博己さんのスーツ姿と優男演技は良かった。
しかし予算がキャスティングで枯渇したのかというくらい残念ながら内容が安い。
音響と音楽がストーリーの邪魔をする不思議な作品。
板尾創路さんや佐藤二郎さんといった元のキャラクターが濃い演者使う時はよほど上手く描いてあげないと平時のイメージを覆せないので難しいのだけれど、その難しさを難しいまま放置してあるので何も生み出せていない。
「なぜこの役者を使ったのか」が見えないので、やはりはじめから役者ありきでしかないという印象。
「こういう佐藤二郎さんなら怖いだろうなぁ、怪演だなぁ」といった制作側の意図が透けて見えてしまい、単なる「佐藤二郎」でしかなく、世界観の崩壊に繋がっていく。
上記は一例だが、ジャニーズの男の子たちも良心的に言ってもう少し頑張りましょう、といったところ。
少なくとも、他の役者の演技を邪魔しないくらいの演技力を身につけてから出て欲しいもの。
あと、この作品は観客のレベルをかなり低く見ていると思われる描写が多い。
たとえば、長谷川博己さん演じる岩見が内務省に拉致されて、そこから脱出するシーン。
あえて最初に時計を抜いて、岩見が役人の隙を作って空き瓶に手を伸ばし、暗転→百合たちと合流→場面が切り替わる前に役人の頭を瓶で殴るシーンを再度インサートする。
こういったこの後に起こることが分かっているからこそ省略したはずのシーンを、わざわざ逐一補完していく。
それがゆえ140分という冗長さを作る原因になり、さらにそういった余計な緻密さを発揮したが故に陸軍や機関の後輩の手際のお粗末さが際立っていく。
敵味方の弾丸の命中率の差は、近代武器と火縄銃くらいの差があるように感じられた。
さらに主役の百合の立ち位置だ。
特殊戦闘能力を持つスパイの中でも最高傑作と呼ばれる設定だが、果たして「?」と思ってしまう描写が多い。
シシド・カフカ扮するランブルに勤める元・馬賊の頭領の方が強いのではないか? 最後まで無傷だし。
原作ではどのような描写かわからないが、扉を開けて(あるいは窓際で?)射線が通る位置に赤子を放置しておくところや、守護対象であるはずの少年があっちこっちにふらふらといなくなり攫われかけた、あるいは攫われることを防げないところなどが気になって仕方ない。
原作は未読なのだが、設定は良かった。
非常に魅力的な設定だ。
突き詰められていない中途半端な映画描写や設定、ただ原作から拾ったのであろう要素(白装束の老婆は一体何もので、何をしていた?)など、そういった観客を舐めた描写が散見される。
「いつもの(大作と呼ばれる)邦画」の一作といったところか。
観る価値なしとまでは言わないが、観ても何かが残るタイプのものではない。
最後に、公式X(Twitter)でのツイートの煽り文句に「装弾数たった六発で、彼女は何を狙うのか」と書いてあったが、本編で銃弾の不安は何もない。
横にいる少年のポケットが四次元ポケットかと思えるくらいに、湯水のように出てくる。
また狙うも何も、ゲームの無双シリーズのように雑兵が突っ立っているので、適当に撃てば当たる。
どこの誰が作った宣伝文句か知らないが、ろくでもない。