「もっとも危険なスポーツ」人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版 スキピオさんの映画レビュー(感想・評価)
もっとも危険なスポーツ
山野井泰史さんという日本を代表するクライマーのドキュメンタリー。面白いです。
山野井は「単独」「無酸素」「未踏ルート」のジャンルにこだわった登山家で、分かりやすく言うと「岩や雪や氷の壁を登る」タイプの登山家です。
映画の見せ方は、山野井さんが若い頃に挑戦をしていた軌跡を辿るパートと、現在の伊豆での生活や今(57歳)の挑戦のパートを、交互に見せるやり方です。山の景色は綺麗ですし、現代のドローン撮影も迫力がありますが、ドキュメンタリーなので語りたいのはテーマ。
まず、印象的なのが「クライミングはとにかく危険なスポーツ」ってこと。
過去映像の中で、当時活躍していたクラマーや、後年になり単独登山からパーティーを組むようになった山野井さんのパートナーが、今は亡き人となっています。さらに、過去の話だけではなく、現在の挑戦でパーティを組んでた山岳ガイドさんも、映画公開前の今年4月に登山中に亡くなっています。
これだけ死と隣り合わせな行為をスポーツと呼べるのか?と考えさせられます。山野井さんも過去映像の中でのインタビュー、30歳代の頃だと思いますが「20代の頃、自分のようなソロスタイルで登るクライマーはたくさんいた。けど、みんな死んでしまった」と語っています。
彼が偉大なのはこれだけのキャリアを持って「生きていること」なのです。未踏ルートに挑戦し、何度も「敗退」となるのですが、負けても生還しているのが凄いこと。無理と判断したら、どんな場所からでも下山できる自信が大切なのだ、とも。
では何故、生還し続けられたのか。
一つは、常に「自分の限界を知っている」こと。一方で、自分がやりたい=登りたい山があれば「どうすれば、どんな努力をはらえば」実現できるかを考え、実行し続けることで、限界は拡がり、自信につながる。
もう一つは、常に「慎重、冷静である」こと。単独や未踏ルートの開拓に拘るのは、達成感が原動力になっている、と語っています。一方でアタックの前日は不安と恐怖で眠れないし、高度8000mの世界で頼れるのは己れのみ、というのは言いようのない孤独感だそうです。達成感が原動力になりつつも、恐怖や孤独感が強いから、慎重で冷静にいられる。
この「限界を知りつつも限界を伸ばす」とか「冷静と情熱の間に」という矛盾する身体と心のバランスを保ち続けることで、死の淵から生還し続けてきたのでしょう。
こういうのをひと言で表すと「勇気ってこういうことさ」ってことかな〜。命を代償にしてまで体得したいとは思いませんが、こういう気の持ち方は憧れますね。