アンビュランス : 映画評論・批評
2022年3月22日更新
2022年3月25日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
全編ベイヘムというカーチェイスは、もはや車が変形しない「トランスフォーマー」!!
あたかも「トランスフォーマー」フランチャイズ(07~)を成功させた代償であるかのごとく、合間に手がけた人間アクションものが、ことごとく国内ビデオスルーな目に遭っている破壊神マイケル・ベイ。そんな呪縛を祓う同カテゴリー久々の劇場公開作は、自身初のリメイクにして、なんと本編のほとんどがアクションシークエンスという地獄の沙汰だ。配信を発表の手段とした前監督作「6アンダーグラウンド」(18)でも、開巻から延々20分間に及ぶカーチェイスが狂気を放っていたが、あの規模を超えるものが、ここでは頭から尻まで容赦なく続くのである。
病に侵された妻を助けたいと、義兄弟ダニー(ジェイク・ギレンホール)の誘いで銀行強盗に加担した元軍人・ウィル(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)。だが金はせしめたものの、大規模な捜査組織の追跡を余儀なくされてしまう。しかも彼らが逃げるために奪ったのは、救命士キャム(エイザ・ゴンザレス)が負傷した警官を救護中のアンビュランス(救急車)だった……。逃走の過程において、二転三転する事態と、重くのしかかる善悪の葛藤。機動力の高いカメラワークや過剰なまでの爆発を配したショットなど、「ベイヘム」という愛称で呼ばれる監督の映像サーカスは、破壊と変調に満ちたカーチェイスを1日設定のオンタイムで描いていく。
そんなベイヘムに今回はFPV(First Person View=一人称視点)ドローンによる撮影が加わり、空域をも制したアクロバティックなカメラワークに驚かされる。そして進化したベイヘムが捉える激走バトルはカオスを極め、その様相たるや車がロボットに変形しない「トランスフォーマー」と喩えて決して言い過ぎではない。むしろVFXやCGにすべてを依存しないぶん、純度の濃いベイヘムを堪能できるというものだ。なにより終始アクションというハイボルテージな運動性は、観客に眼前の出来事を理解させるというより、混乱の渦中に置いて受動的な視覚体験を与えようとしている。
しかも本作はコロナ禍がもたらした制限下で、どれだけ過激なアクション演出が実践できるのかという実験のもとに成り立っている。それなのにここまでベイ汁ダダ漏れな豪速球が投げられるのだから恐ろしい。もはやストーリーはアクションを繰り広げるために便宜上あるようなものだが、それでも勢いとハッタリの利いたアプローチが観る者の感情を刺激し、しかもそれは観客のためであると同時に、映画がいかにスタイルだけで作家性を主張できるかという監督の挑戦でもある。脱知性的で、どちらかというと皮肉を込めて称えられるベイヘムだが、創造に富んだ破壊という矛盾を成立させる凄技なのだ。
(尾﨑一男)