「敗北」ナイブズ・アウト グラス・オニオン U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
敗北
試合に負けて死合に勝つような事かな。
前作に引き続き手玉にとってくれる。
ミステリーを読み漁った読者層がターゲットのような内容にニヤリとしてしまう。
最初からいる同居人の存在をそれなりに引きずってしまう。冒頭「無視してくれて構わない」と断言されてるにも関わらず、だ。
そして、彼は全く関係なかった。
観客の興味を散らす為だけに存在してた。
やはり中々に手が込んでいて…その構成もそうなんだけど、特出すべきは冒頭の引力か。
瞬く間に取り込まれる。
勿論、優秀な舞台装置やマテリアルのおかげではあるけれど、こうも引き込まれるものなのかと見終わった後に気づく。ラストまでアッという間だった。
かの名探偵は今回もあまり捜査をしない。
が、その切れ者の一面を遺憾なく発揮する。主賓が用意したトリックを数秒で言い当てる。気持ち良かった。
そして、第一の殺人が起こる。
コレは結構大胆な描写だった。
なんとなくのフォローはあるものの、誰の犯行かは検討がつくのだ。記憶の改竄や誘導になるのだろうな。実際あの場にいたのならとても有効な手法だと思う。
別にシリアスな事ばかりやってるわけでもなく、随所にユーモアも挿入される。なのだが、コレほぼほぼシュチュエーション的な笑いなので、全く物語を邪魔しない。どころか人物に厚みを付与してくれてる。
キャラとシュチュを踏まえた演出に好感度大だ。
種明かしになり「グラスオニオン」の意味がやっと分かる。確かにそうなのだ。
全てのパーツが彼を示してる。
そして1番被害を被るのも彼だ。
その事象を巧みに隠しミスリードの嵐が吹き荒れる。そんな大海原で迷う事なく灯台を目指す一隻の船。それこそが世界一の名探偵と呼ばれる彼だった。
彼にしてみれば盛大な茶番もいいとこなのだろう。
謎解きに際し、あろう事か彼は怒ってたw
正直、007のグレイグも好きだけど、名探偵のグレイグの方が好きだ。いきいきしてるように見える。
結局のところ、彼の推理は尽く当たるも、犯人を詰めるには至らず、冒頭の一言が浮かぶ。
まぁ、とはいえ、司法さえも薙ぎ倒せる犯人なので、彼と彼女の選択は最善だとも思う。
用意されたものは全て、その役割を完膚なきまでに果たす。
ラストカットのモナリザ風ショット。
だいぶ含みのあるカットではあるけれど、遊び心の表れなのかなぁと、最後の最後まで煙に巻かれる。
このシリーズが好きなのは、どこか品格を感じるからだ。ミステリーを嗜む時間としては大前提のモノがちゃんと用意されてるように思う。
ミステリー小説を手に持ちページを一枚づつめくる環境に必須なのは、まずは静けさではなかろうか?小説を読むのに欠かせないのは心の余裕だろうか?
なんか、そんなモノを想起させ、提供してくれてるようにも思う。