「「ジュリアン」という名にこめられた思い」ホワイトバード はじまりのワンダー おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
「ジュリアン」という名にこめられた思い
全くのノーマーク作品だったのですが、大きな感動を与えてくれた2017年の「ワンダー 君は太陽」のアナザーストーリーであることを知って鑑賞してきました。ジュリアン役のブライス・ガイザーが続投し、いじめ加害者側の視点で展開していく点が興味深かったです。人として大切なことを教えてくれる作品であり、「ワンダー 君は太陽」を未鑑賞でも問題ないので、ぜひ多くの人に観てほしいです。
ストーリーは、級友をいじめたことで退学となり、新たな学校で人との関係に消極的になっていたジュリアンのもとにパリから訪ねてきた祖母サラが、自身の少女時代、ナチス占領下のフランスでユダヤ人である自分を命懸けで匿ってくれた友達ジュリアンと彼の両親との思い出を語るというもの。
サラの級友ジュリアンが、まだ子どもであるにもかかわらず、我が身に及ぶ危険を顧みずにサラに手を差し伸べる姿に心打たれます。心優しき両親に育てられ、自身も蔑視される苦しみを知っていたからこそ、命懸けでサラを匿い続けたのでしょう。そこにサラへの恋心もあったでしょうが、彼を突き動かしたのは目の前で失われそうな命を何とかしたいという、人としての優しさだったように思います。
他にも、子どもたちを命にかえても守ろうとする先生たち、サラを匿う中でなんとかしてサラの誕生日を祝おうとするボーミエ夫妻、夫妻の窮地を救おうとなけなしの財産を差し出す2階の夫婦など、他人のために命懸けの献身を見せる姿に涙が溢れます。
級友ジュリアンの姿を通してサラが語る思いは、孫のジュリアンの胸に深く刻まれたことでしょう。そして、その名に込められた思いも強く噛み締めたことでしょう。それは、私たち観客も同じです。第二次世界大戦終結から約80年、私たち人間は本当に何を学んできたのか、そう問いかけられているようです。戦争はしないが、それを終わらせるために何かをするわけでもなく、そこに深入りしないようにするだけ。それは、孫のジュリアンが「いじめから学んだこと」と同じではないでしょうか。そこに、愚かな戦争の終わりは見えません。
最後に、画家として大成したサラは、回顧展のスピーチでキング牧師の言葉を借りてこう語ります。「闇は闇では払えない。光でなければ。」と。憎しみと復讐の連鎖を断ち切るには、愛と優しさを命懸けで貫かなければなりません。それは、口で言うほど簡単ではありません。それでも、目の前の出来事に違和感や嫌悪を覚えて何とかしたくても、それを行動に移せない、声も上げられない人が多い中で、一歩踏み出す勇気を与えてくれる本作。今からでも自分にできる小さなことから始めてみようと思わせてくれます。
キャストは、アリエラ・グレイザー、オーランド・シュワート、ヘレン・ミレン、ブライス・ガイザー、ジリアン・アンダーソンら。中でも、名優ヘレン・ミレンの穏やかな佇まいから発せられる言葉が深く沁みます。