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磯村勇斗の演技見たさと、原作をさわりだけ読んで面白そうだったので鑑賞。
原作者は、信仰や思想信条に依存する人間が隠し持つ弱さを描くのが上手い。
「俗世」で人間が生きづらさを感じるのは何故だろう。あまりに多様化した価値観、それが全て見えてしまうネット環境、その中で特に心が弱った時に、生きづらさを生み出す混沌とした世の中を否定し別世界を示してくれる、確たる何かを拠り所にしたくなる気持ちは分からなくもない。
でも、「俗世」を軽蔑して排除し、自分の中の本能を汚らわしいものとして否定する先に本当の安寧はないのだと、改めて思う。人間である限り、自分だけそれらから無関係であることは出来ない。
磯村勇斗のファンにとっては、「好き」のスタンスによってはちょっときついかも知れない。北村優衣との濡れ場がなかなか濃厚。カルトの戒律という禁欲的な要素と並べられているので一層、スイカに塩を振ったような濃さを感じる。レーティングの基準をよく知らないのだが、R15+でここまでいいんだ、という感じだった。
映画初主演ということで彼の演技を楽しみにしていた。確かに上手いことは間違いないのだが、この映画はカルト信者同士の会話中心ということで、あえての棒読み調セリフが多いのだ。そして、状況が変わった時は突然叫びだす。濡れ場は二人の体を張った頑張りの方が目立ってしまう。そのため、俳優の演技巧者ぶりに静かにはっとさせられるようなシーンが少ないし目立たない気がした。こういう演技だけなら、磯村優斗はもったいないような。
議長が一番人間臭くて面白いキャラクターだった。物語のテーマを一番体現していたのではないだろうか。宇野祥平はハマり役。
本作では、信心を揺るがす肉感的な女性の裸体というのは物語の説得力を左右する大事な要素で、北村優衣はその役目をしっかり果たしていた。でも、侵入者のヤンキーに乱暴されて感じたってのは男性の妄想描写。議長に最後まで拒否感を持っていたこととの整合性もない。
原作者の山本直樹の出演を楽しみにしていたが、期待以上に頑張って吐血していて笑ってしまった。
最後の、妄想と現実が交錯する描写は、夢を記録し続けたことで狂いが生じたオペレーターのメンタルを表しているのだろう。もちろん牢屋の中だけが真実。夢を記録するのって、実際精神衛生上よくないらしいですね。
オペレーターが副議長を乗せてボートを漕ぐ、あの風景とそっくりな抽象画を見たことがあるが、詳細を思い出せない。