「カットしたもの」ハッチング 孵化 なつさんの映画レビュー(感想・評価)
カットしたもの
美しい家具、優しい夫、可愛い子供達、特に体操に励む娘を献身的に励まし自慢する
そんな配信者あるあるは普通
「それはカットするから大丈夫」
何が大丈夫なのだろう?
そんな美しい我が家の裏側は序盤で母親が平気でカラスの首を折る行為でわかりやすく観客に教えてくれる。
選手に選ばせる為、ティンヤへの猛特訓。
母親の練習への執着で友人と共に帰る事もできない。
すべては母の為、母の愛情を受ける為。
ティンヤは森で瀕死のカラスを見つけ、母の行い通り「苦しまないように」と石で殴りつけその亡骸の下で卵を拾う。
ティンヤはふつふつと溜まっていく暗い澱を卵に注ぐ様に抱きしめる。
浮気をしても悪びれない母親。
それはエスカレートする一方。
ティンヤの涙が卵に伝わった瞬間、大きくなった卵は孵化する。カラスの様な産声と共に
恐ろしい姿のそれは母を求めてティンヤにすり寄る
それに対してティンヤも吐き戻しでご飯を食べさせ着飾る。
それは徐々にティンヤの心の揺れを察知し片付けていく。
うるさい犬、自分より優れた演技のできる少女、ついには浮気相手の赤子まで手にかけようとする。
母親の赤子に対する異常なまでの愛情が気持ち悪く、赤子の泣く声から変わる喘ぎ声、美しく愛ある家庭はティンヤの家にはないもの。
母はその子さえも撮影し、「手元はカットするから大丈夫」と。
ティンヤの心の連動からそれはどんどんティンヤに似てくる。
それのせいで最愛の浮気相手も彼の子供も奪われた母。絶望に満ちていても幸せな配信を続ける。
ティンヤが産み出したそれは母に抱きつく。しっかりと。
不満や悲しみの奥には母からの愛情を求めたティンヤがいた。
それを始末する前に抱き合うティンヤと母。
それは丸い鏡に映る光景。鏡に投影された親娘の間には愛はあったのだろうか。
個人的にはわかりやすい支配的な母親よりは事なかれ主義の父親に問題があると苛立った。
支配されることに慣れ、見下されていても良い夫を続ける。浮気を知っていてもスルー、母親の事は尊敬していると。
隣人にはにこやかに挨拶をしながら掘り返した土を隠す。
手のかかる下の男の子を押し付けられる。
別に男が支配的だったり男らしくせねばとは思わないけど人間的にどうなの?ってなった。
ジャケットの通り、カットしたものは家族。
ホラーというより寓話的な作品