「それはエッグ(エゴ)を育て続け、肥大化させた人間の姿。」ハッチング 孵化 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
それはエッグ(エゴ)を育て続け、肥大化させた人間の姿。
一見誰もが羨む理想的な家庭、しかしそれはまるで洗剤のCMでも見てるかのように妙に白々しい。それもそのはず、その姿はあくまでも母親の願望でしかない。母親は自身が望む理想的な家族の形を動画配信することで幸せアピールをし、自らの欲望を満たそうとする。
彼女の前では夫と息子はもはや記号化した存在でしかなく、実際夫は妻の不倫を知りながら妻の貪欲さを尊敬しているとまで言い放つほど主体性が感じられない。息子に至っては定期的に駄々をこねるだけのかきわりに成り下がっている。
そして母がかなえられなかった夢の実現に向けて日々プレッシャーを感じてるのが主人公のティンヤ。
母の願いをかなえるためひたすら体操の練習に明け暮れる彼女だが、そんな彼女をしり目に母は不倫を楽しんでいる。
母への鬱屈した思いを日に日にため込んでいた彼女はある日森で拾った卵をこっそり温め始める。その卵はまるで彼女の鬱屈した思いを養分とするかのようにどんどん大きくなっていった。
ティンヤも自らの鬱積したエゴを育てるように卵を温め続ける。そうして彼女の肥大化したエゴは巨大な卵となり、やがてそこから禍々しい怪物が生まれる。
アッリと名付けられたその怪物は彼女の思いに呼応し、彼女の心の底で蠢いていた願望を実現していく。彼女にとって邪魔な存在に次々に危害を加えていくのだ。次第にティンヤもアッリが自分の分身だと気づくが、アッリの暴走は止まらない。
彼女のエゴが創り出したもう一人の自分、なんとかしてそれを消し去ろうとするが結局ティンヤはアッリをかばい命を落としてしまう。
ティンヤの血を飲んだアッリはティンヤの姿に。唯一理性的な部分を持ち合わせていたティンヤが消え、エゴの塊のようなティンヤがここに孵化した瞬間だった。
しかしそれは驚くには値しない。ティンヤの母もそうして大人になったのだから。自分の欲望を満たすことしか頭にない母親、彼女もティンヤのように孵化して今の自分になったに違いない。
北欧スリラーといえば、直近では「ボーダー」なる傑作もあったけど、本作はサイコスリラーとしては少々中途半端な出来。
劇場にて鑑賞。再投稿