「PLAN 75・・とは?」PLAN 75 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
PLAN 75・・とは?
75歳になったら、
自らが生死を決定する権利を保障して、支援する制度のこと。
もちろん架空の設定です。
早川千絵監督が10年後をテーマにしたオムニバスの一編として監督した短編を
自ら長編化しました。
この映画は日本の高齢化社会の現実を鋭く突いています。
ヒロムが「PLAN 75」制度で死んだ叔父(たかお鷹=好演)を、
せめて火葬だけでもしてあげようとして
自分の車に叔父の遺体を助手席に乗せて走り、
スピード違反で白バイに停止を求められる。
《・・・職務違反の遺体の無断持ち出し・・・》
このシーンはかなりサスペンスフルで、緊張感が高まりました。
早川千絵監督(46歳の女性)は、
インタビュー動画で、こう語っています。
若い人に、
「自分達が何に組み込まれているのか?」
「何に加担しているのか?」
気づいてほしい・・・と。
岡部ヒロム(磯村勇斗)と成宮瑶子(河合優美)と
マリア(ステファニー・アリアン)の3人がその若い人で、
ヒロムは「PLAN 75」の申請窓口の担当者の市役所職員。
瑶子は「PLAN 75」のサポート業務担当のコールセンター職員。
マリアは介護職員から娘の心臓手術費用を稼ぐために更に高額な
「PLAN 75」で遺品の整理などの仕事に転職するフィリピン人女性。
前述のヒロムの止むに止まれぬ行動。
20年も疎遠だった叔父が「PLAN 75」への応募で再会する
どうしようもなく込み上げる不憫さと肉親への情・・・
決行の日に寝坊して頼ってくる叔父を食堂に誘い、
お酒を注文して・・・叔父は車酔いして吐いてしまう・・・
(早川監督のリアリズム描写が憎いほどです)
主役の角谷ミチ(倍賞千恵子)。
2度の離婚そして出産時に子供を失い天涯孤独。
働き詰めの人生でした。
ホテルの清掃員を解雇され「PLAN 75」を遂に選択します。
ミチの担当者の瑶子は、会話を交わすうちに次第にミチに
祖母に対するような愛情を感じていきます。
ミチと瑶子がミチの懇願で対面するシーン。
ミチは思い出の場所でクリームソーダを飲み、
2人がボーリングに興じるシーンは美しい。
隣のレーンの若者ともハイタッチを交わしたミチの
嬉しそうな顔。
そしてミチに最後の別れを告げられた瑶子は
動揺して涙ぐみ言葉にならない。
確かに長高齢化社会の歪みは大きい。
若い人の社会保険料の負担。
高齢者の医療費に注がれる巨大な費用の肩代わり。
若者の税負担は非常に重たいです。
「俺たち自分たちの世代は年金が貰えない」
そんな言葉もよく聞きます。
ラストがとてもリアルでした。
ミチは吐き気止めを飲んだ後、マスク越しに全身麻酔のような薬で
眠らせられるところで、
装置に不具合が発生する。
隣りがヒロムの叔父で、やがて呼吸が間遠になり呼吸を止める・・・
急激に不安な表情に変わるミチ。
倍賞の演技が冴える。
ミチの本心は
「生きていたい」なのです。
ラストの歌、途切れ途切れの、
「林檎の木の下で、
「明日また逢いましょう」
夕日が美しく映え、生きてることの
喜びを慎ましく表現しているシーン。
その後ミチが経済的にどう生活を立て直すか不明ですが、
希望を感じるラストです。
実際に国民年金受給者は貯蓄のない者は生きていけないのです。
「稲ちゃん」や「ミチ」のように後期高齢者になっても
働かざる得ない社会なのです。
そして更に政府は年金受給年齢の引き上げを検討している。
受給年齢の65歳までどう食いつなぐか?
悩む人々はとても多いです。
日本は北欧の福祉国家のように安心して老後を迎えられる国ではない。
だから「PLAN 75」が生まれたのです。
「PLAN 75」は、
一見合理的なようだが、
ヒロムや瑶子、そしてマリアのように
制度に疑問を持ち精神を
疲弊させていく若者がいる。
それでなくても超高齢化社会で若者の覇気が失われて、
若者の心に希望が少ない。
この映画は今年のアカデミー賞の
国際長編映画賞の日本代表に決定しました。
是枝裕和監督からは、“誇りに思う“と声を掛けられたそうです。
共感やコメントありがとうございます
私は主役に歳が近く死に方の方ばかりに目がいってしまいましたが、
若い3人の在り方も少子高齢化の大問題でもありますし
高齢者だけの問題ではないなと琥珀糖さんのレビューを拝見し思いました。
私自身はニュースを見てるかのように、ありそうな話に思えたのも怖いなと。
失礼します
タイムリーな内容なので、コメントさせて頂きます
ネットニュースで話題の成田某氏は、今作品を鑑賞してそれでも意見に変化がないか是非訊いてみたいものです 勿論、現実問題としては無事じゃすまない解決しか残されていないことは誰の目にも明かなのですが・・・ でも先ずは成人以上は今作をもれなく鑑賞して欲しいものですね
失礼しました
早速の回答ありがとうございます。
冷静で現実的な回答ですね。
私は、命は与えられたものだと理解しています。
与えられたものは、使い切りたいです。生を全うしたいです。
今は元気なので、そういう考え方ができるかもですが。
では、また共感作で。
ー以上ー
共感ありがとうございます。
倍賞千恵子を主役にしているので、本作のメッセージは明白でした。
本作のメッセージは題名とは真逆の、生を全うする、生きている限り希望はあるということだと思います。私も生きることはそういうことだと思います。
琥珀糖さんは、生きること、本作の死の選択について、どう考えているのでしょうか?
では、また共感作で。
ー以上ー